第57回藝大オペラ定期公演
14時〜 東京藝術大学奏楽堂
- モーツァルト:歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》
舞台上は、高さ4メートル奥行き数十センチ程度の六体のキャスター付き筐体(ナポリの俯瞰図が描かれている面と、青空っぽく塗られた面を有する)があり、これが幕あるいは家の壁等のように用いられてました。その他の舞台装置も含めて、基本的に舞台上の持ち運びは合唱団が担当しています。この結果、《コジ》の騒動の全てが「ドン・アルフォンソ主導による、ヒロイン2名を騙すためのお芝居」であることがはっきり打ち出されていたように思います。あと、第一幕の男性陣の出港時には、客席中央通路に絵に描いた船+水色の布による波の表現、という舞台装置が出て来て笑いを取っていたことも付言しておきます。なおこれ以外は、非常にオーソドックスな舞台作りで、もちろん台本の読み替えもおこなわれておりませんでした。……デスピーナとドン・アルフォンソが「いい感じ」であるのは独自解釈と言えなくもないけれど。第二幕終盤で、真相を明かされて怒ったデスピーナに、ドン・アルフォンソが困った困ったと頭をかくのは、明らかにカノジョに怒られたカレシの困惑そのものだったように思います。歌手も公演でした。
音楽面では、フェランドの声の伸びが悪くて特にアリアが駄目だったり、フィオルディジーリが低い声をほとんど出せてなかったり、全般的にちょっと音程を誤魔化しているような箇所が散見されるなどしましたが、まあどんな音楽かはわかるし、テクニック的にも「それで食って行ける」というプロの水準には到達していたと思います。特に怖じずに楽譜と向き合っているのは十分伝わって来たので、感動や感心はない一方、特段の不満もなかったので、それなりにプラスの感情を抱いて会場を後にできたのは確かですね。
歌手以上に素晴らしかったのはオーケストラ。声を邪魔しない柔らかな響きが引き出されており、それでいて緩急もしっかり付けられていて普通に感心いたしました。団員の年齢層から見るに、学生ではなく教師陣っぽい人が大半を占めていたように思われますが、それが奏功したのかも知れません。声も含めて音楽の求心力を担保したのは明らかに高関健で、その手腕も高く評価したいです。