不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団 2011横浜定期演奏会

14時〜 横浜みなとみらホール

  1. シューベルト交響曲第7番ロ短調D.759《未完成》
  2. ブルックナー交響曲第7番ホ長調(ノヴァーク版)

 ブルックナーはノヴァーク版を使用するけどシンバルとトライアングルは使用してませんでした。横浜の会場で掲示があったかどうかは気付きませんでしたが、同じプログラムによるサントリーホールでのB定期ではあった模様。
 演奏はとても素晴らしいものであった。N響ブロムシュテットがリハーサルで言ったことに完全服従しよく練習したと思しく、弾き込みが細かい細かい。全体的なバランスも素晴らしく良くて、たいへんな名演奏になっていたと思います。どのパートが良かったとかいうのではなく、全体として素晴らしかった。唯一、第一楽章展開部の途中で金管が少しだけ「鳴ってるだけでリズムとかあんまり考えてない」状態になってたのが残念な所でしたでしょうか。でも正直、この手の「残念」はN響も含めた日本のオーケストラの金管では半ばデフォルト状態に近いので、今日はむしろ、この箇所以外はちゃんと有機的にリズミカルに鳴ってたところを誉めたたえるべきなんでしょう。その他、弦も木管も穴のない良い演奏を聴かせて、明らかに世界トップクラスのオーケストラにタメを張れる高い完成度を終始保っていました。ということで「鳴り」に関しては以上。一方、ブロムシュテットの解釈はこの人らしく非常にプレーンで、真っ当かつ中庸(ただハイティンクに比べると若干リズム等が重い)。シューベルトは流麗かつソフトに、ブルックナーも流麗でそして過度に感傷的にはならず、エモーション面でも節度ある演奏になっていたように思います。ブルックナーの第二楽章も葬送行進曲のペザンテな面はさほど強調されず、第一楽章はとても明朗かつ元気、第三楽章とフィナーレは本当に元気はつらつという感じ。もうちょっと色気や味付けがあっても良かったようには思いましたが、充実感は比類ありません。
 これがヨーロッパのオーケストラなら、楽団員が個々のプレーで「色を付け」、あるいは練習場では見せなかった実演ならではのヴィヴィッドな反応を見せて、情緒面でより素敵な演奏になったんじゃないかと思わないでもないですが、まあ今日のN響が健闘したのは間違いない所だと思います。合奏能力や個々の技術的力量においては、好き嫌いを超越してやはり日本トップのオケだと痛感した次第。
 ただし横浜の休日マチネーということもあってか、客の質はそれなり。《未完成》で携帯を鳴らした馬鹿なおばさんが1階席9列目にいましたし、ブル7ではブロムシュテットがまだ高々と手を揚げているのにパチパチ拍手をし始めた人物が恐らく2階LAに出現しました。頭もセンスもさぞかし悪くていらっしゃるんでしょう。そんな頭を抱えて生きていてもつらいだけでしょうから、どなたか早く楽にして差し上げてはいかがか。
 ところで、本来であれば、この後ブロムシュテットN響いわきアリオスN響いわき定期(年1回。確か去年から始まったはず)に旅立つ予定だったのですが、肝心の会場が地震被害を受けてまだ再開されておらず、演奏会そのものが中止になりました。ブロムシュテット自身は行く気満々だった模様なので、とても残念です。震災後日本で演奏する人々は「音楽の力」を云々しますが、それを最も切実に求めている被災地の方々に、音楽を届ける機会が極端に少ないのはどうにも引っ掛かっております。ホールが直らないからしょうがないのかも知れませんが、放射能汚染を恐れて仮病を使って(または全く大したことのない身体的な故障をさも重大なことのように言い立てて)来日を中止したり、来日しても福島第一原発に近いからとの理由で水戸公演を中止するアーティスト*1も出ている昨今、せっかく意気軒昂だった世界的巨匠と日本を代表する管弦楽団が、被災地での演奏会を中止せざるを得なかったのは、とてつもなく勿体ない。せっかくの貴重な機会だったのに……。この未完成とブルックナーは、東京や横浜以上に、福島県でこそ響かせていただきたかった。誰も本当に全く悪くないのですが、残念です。

*1:エマニュエル・パユのことです。