不壊の槍は折られましたが、何か?

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読売日本交響楽団第541回名曲シリーズ

サントリーホール 19時〜

  1. ベートーヴェン:劇音楽《エグモント》序曲
  2. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番ト長調op.58
  3. (アンコール)ベートーヴェン:11のバガテルop.119よりアレグレット*1
  4. ベートーヴェン交響曲第7番イ長調op.92

 本日より今シーズンのコンサート行脚を開始いたします。初回は読響がコヴァセヴィッチを迎えて、常任指揮者と共に贈るオール・ベートーヴェン・プロ。ほんの数年前まで、カンブルランはあまり来日せず実演がなかなか聴けなかった。また、録音面からは精妙な演奏で現代音楽とモダンを料理するエキスパート、という印象が強かった指揮者である。しかし読響の常任に就いてからというもの、むろんモダンなプログラム、あるいは興味深い変化球気味のプログラムもよく組むのだが、意外とオーソドックスな曲目をメインで取り上げて、かつ結構なますらをぶりを見せてくれたのである。そんな彼が、リズムの神化とすら言われるベト7を振る。何度か実演に接して、良いコンビネーションを聴かせている指揮者とオケだけに、これは定期以外にも出張ってみようかと思わされたのである。
 序曲はやや力が入り過ぎたか、アンサンブルが乱れる箇所が多めでしたが、鋭利な音楽作りを目指しているのはひしひしと伝わって来て、結構熱い演奏に。続く協奏曲では、オケが非常にソフトな音を出す中、コヴァセヴィッチが実に自然な息吹で、優しく流麗な音楽を奏でていて印象的でした。70歳ということで、ミスも散見されるんですが、音楽の流れと佇まいが圧倒的に美しい。そしてタッチがとても繊細で淡く、ピアノ協奏曲第4番から清らかな美を引き出していました。音楽的な充実度は、今日はこの協奏曲とアンコールのバガテルが随一だったかな。また来日していただいて、今度はぜひリサイタルに接してみたいと思います。
 後半の交響曲は、切れ味鋭い音楽で、リズムよりも各所のモチーフを優先していました。オーケストラの音響バランスが、ドイツ型の低音が分厚いピラミッド型のものではなく、指揮者の引き立てたいパートが随時クローズアップされる即妙なもの。推進力は強いのですが、所々でタメを作ったり意外なパートを浮き立たせたりと、遊ぶ箇所がたくさんあって聴いていて非常に愉快。表現意欲は終始非常に強く、曲想の描き分けがパラノイアックなレベルに達するほど綿密におこなわれていますが、それが音楽の流れを阻害することもなく、とにかくひたすら情熱的にしてシャープ。こういう演奏は、私が思うカンブルランの持ち味そのもので、それをベートーヴェンという古典的レパートリーで全開になっており、とても楽しかったわけです。オーケストラも、協奏曲でいい感じにほぐれていて、指揮者の棒に鋭敏に反応していました。弱音部の精妙なアンサンブルも素晴らしかった。カンブルランと読響のコンビ、ますます好調であります。

*1:すまん「多分」です。コヴァセヴィッチはぼそぼそと「Bagatelle」と呟いただけで、ホワイエの掲示板にも「ベートーヴェン バガテル」としか書かれてませんでした。