不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2011 篠崎史紀とN響メンバーによる室内合奏

18時〜 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

  1. モーツァルト:セレナーデ第13番ト長調K.525《アイネ・クライネ・ナハトムジーク
  2. クライスラー:美しいロスマリン
  3. クライスラー:愛の悲しみ
  4. クライスラー:愛の喜び
  5. ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ《美しく青きドナウ
  6. ヴィヴァルディ:協奏曲集《和声と創意への試み》op.8より協奏曲集《四季》
  7. (アンコール)モーツァルト:セレナーデ第13番ト長調K.525《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》より第1楽章*1

 休憩挟んで19時40分終演と予告された演奏会であったが、篠崎史紀氏(通称マロ)が特に前半、マイク片手にかなり喋って盛り上げたため、アンコールが終わってみれば20時超えてました。長さ的には完全に普通の演奏会であります。
 新百合ヶ丘という首都圏郊外という土地柄もあろう、《アイネ・クライネ》の楽章間では一々拍手が挟まれるなど、クラシックのコンサートに不慣れなお客さんが多かったようですが、その割には会場は静寂に保たれ、気持ち良く聴けました。マロ氏のトークが緊張を解きほぐした面もあろうけれど、客席は結構集中していたように感じられ、演奏者もそれに応えてノリの良い演奏を披露。気合いの入っていないN響定期よりも遥かに活気ある演奏になっていたのは、非常に興味深く聴いておりました。マロ氏率いるアンサンブルを聴くのは今日が初めてだったんですが、元気の良い演奏で、技術的にも全員本当にしっかりしていて、に感心しきり。おまけにトークも大変上手く、他の奏者に無茶振りするなどし、笑いをとっていた。なるほどこれは確かに人気も出るなあ。《アイネ・クライネ》は珍しいコンチェルト・グロッソ形式による演奏で、時折各パートがソロになって耳をそば立たせてくれました。クライスラーのワルツ3曲+《美しき青きドナウ》では、単純な三拍子ではなくちゃんとウィンナ・ワルツのリズムでやっていたのが印象的です。
……が、それでもなお、ばりばりのモダン・スタイルによる《四季》は退屈極まりなかった。悪い演奏じゃ全然ないし、装飾音もガシガシ付けていて、決して大人しくはなかったんですけれどねー。この時代の音楽に関しては、もう私は後戻りがきかないぐらい、戦闘的でエッジの立ったピリオド・スタイルに毒されてしまったようだ。
 最後は、《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》を、コンチェルト・グロッソ版ではなく通常の弦楽合奏でやって――と思わせておいて、展開部ではリズムはそのままに《蛍の光》を混ぜるという曲芸を披露。チェロも立ち上がって演奏する中、マロ氏のみ演奏するのを止めて会場に「バイバーイ」と手を振るという小芝居も見せてくれました。この挙動のおかげで《蛍の光》のメロディーが出ている間中、客席がずーっと拍手していたので、アレンジがよく聴き取れないという副作用が出ていたのは残念でしたが、まあ仕方ないね。
 というわけで、今日は本当に楽しく聴いて来ました。私は聴き手として、オタクっぽい嗜好/志向を強めて久しいわけですが、それでもこういう演奏会に接すると、やっぱり音楽って本当に素直に楽しいなあと思います。耳を洗うのは本格的な演奏会、あるいはオタクっぽい曲目の演奏会でも可能です。しかし、心を洗うのは、こういう演奏会か、アマチュアの演奏会だと思う。大事にしていきたい。

*1:ただし、展開部では蛍の光を混ぜるという粗技に出た。