不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2011 新日本フィルハーモニー交響楽団

15時〜 テアトロ・ジーリオ・ショウワ

  1. ウォルトンヒンデミットの主題による変奏曲(1963)
  2. ブリテン:ヴァイオリン協奏曲 op.15
  3. (アンコール)J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調BWV1001よりアダージョ
  4. ヒンデミットウェーバーの主題による交響的変容

 アルミンクは原発を恐れて、新日本フィルにとって鳴り物入りの公演だった新国立劇場の4月の演目《薔薇の騎士》をキャンセル。音楽監督なのにその対応は何だと、ファンと事務局、そしてオーケストラの不興を買った。その後、5月の新日本フィルの演奏会をアルミンクは予定通り指揮したが、リエージュ・フィルの音楽監督になることを自らの口で楽団員に説明しなかったらしいとか、(私は行ってないが)演奏会ではオーケストラとの間に隙間風が吹いているらしいなど、色々芳しくない情報が出ていた。正直、在京オーケストラのシェフの中でもアルミンクは甘く見られている方であった。譜読みは確かで音楽性も素直、筋の良い指揮者ではあるのだが、常にもう一押し足りない。好感が持てるけれども、心の底から感心したり感動したりするタイプではなく、私が行った限りにおいては会場の沸き方も大人しいのが常であった。しかし、彼は新日本フィルの演奏会のおよそ半分を振るなど、オーケストラと密接に結び付き、オケとの仲の良さにかけては在京随一、世界的にも稀な「蜜月」を過ごして来ていたはずである。だがそれは、原発事故により一瞬で崩壊してしまった。さてそれを立て直すことができるか。私がこのコンビを聴きに行くのは数年ぶりだが、その点を確認しに行きたかったのである。根性の曲がった聴き方であるのは認めるが、でもこういう興味の持ち方もいいんじゃないですかね。……それに、プログラムも素晴らしいじゃないですか! おまけにソリストファウストですよファウスト
 で実際の演奏内容ですが、まずは何と言ってもファウストである。ブリテンである。美音や技巧の強調で誤魔化すなんてことは絶対にせず、凄まじい集中力で楽譜に深く鋭く切り込むストイックな演奏で、最初から最後まで圧倒されっ放し。同じ楽想を繰り返しつつ消えて行くラストが、全く飽きないどころか、どんどん深淵に呑み込まれて行くようで背筋が凍りました。ああいう音楽の前では、ヴァイオリニストも凄いが、ブリテンのヴァイオリン協奏曲という曲自体のあまりの名曲っぷりに感動いたしました。そしてまず何よりも先に曲を名曲だと痛感させた時点で、ヴァイオリニストがどれだけ凄かったかの証明になっているでしょう。アンコールのバッハもまた素晴らしい。ビブラート控え目の、これまた演奏者よりも先に曲の素晴らしさに目が行く演奏であった。
 その他のプログラムは、アルミンクの素直な音楽作りが反映された佳演。新日本フィルもコンディションは上々で、それなりに楽しめた。愉悦感か艶がもうちょっと出ていたら、真に素晴らしい演奏になったのでしょうが、まあないものねだりはすまい。あっけらかんとした曲調は、このコンビにはよく似合っていたと思う。……オーケストラの面々が概ね仏頂面で演奏していたのはちょっと気になりましたが。まだ引きずってるんですかねえ。