不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

パク・ヘユン ヴァイオリン・リサイタル【プロジェクト3×3 vol.1】

19時〜 紀尾井ホール

  1. リスト:ダンテ・ソナタ(ダンテを読んで)
  2. ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第7番ハ短調op.30-2
  3. R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ変ホ長調op.18
  4. ラヴェル:ツィガーヌ
  5. (アンコール)J.S.バッハ無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番イ短調BWV1003よりアンダンテ
  • パク・ヘユン(ヴァイオリン)
  • マリアンナ・シリニャン(ピアノ)

 vol.1とあるが、実際は3回目である。本来この演奏会は3月17日に予定されていたが、震災影響で延期となっていたものだ。加えて、今日はパク・ヘユンが体調不良とのことで、ワックスマンの《カルメン幻想曲》が、ピアノ・ソロの《ダンテ・ソナタ》に差し替えられた。これに伴って曲順も変更され、本来はベートーヴェン→ワックスマンであるところ、リスト→ベートーヴェンの流れになったという按配である。
 リスト一色だったvol.2、正統派かつシリアスだったvol.3に比べて、曲目の点では変更後といえども、かなり華やか。1992年生まれのヴァイオリニストに1978年生まれのピアニストということで、見た目でもその印象は強まっている。そして演奏も華麗で素晴らしかった――と続けられたら良いのだが、残念ながら私の好みには合わなかった。パク・ヘユンのフレージングは息が短く、特にベートーヴェンで顕著だったが、オノマトペで言うとずっと「キコキコ」していた印象がある。音色もそれほど美しいとは思われない。シリニャンのピアノも、イタマール・ゴランとか、或いは同じリストの曲を同じホールで5月に弾いたリーズ・ドゥ・ラ・サールに比べると非常に大味。座った場所のせいかも知れないし、パク・ヘユンの体調が悪かったということもあるかも知れないが、少なくとも今日は残念な感じだった。
 とはいえ良い所が全くなかったわけではない。後半になって楽しめる局面が増えて来たのは事実。特に見事だと思ったのはラヴェルで、これがロマ起源であることを如実に感じさせる、土俗的な風味が感じられた。中低音が充実していたからかなあ。リズムは鋭敏なヴァイオリニストですしね。あと、先月の東響定期のアンコールで諏訪内晶子が弾き「音楽になり損ねていた」感のあるバッハのアンダンテが、今日はかなり速いテンポをとっていたことも相俟って、しっかりと形を成した音楽に聴こえたのは嬉しい所である。
 繰り返しになるが、体調が悪かったということもあるかも知れないので、パク・ヘユンという音楽家への評価はまだ未決定(仮決定もまだ)と考えておきたいと思う。次に聴くのは……来年3月の東響定期かな?