不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

三浦文彰 ヴァイオリン・リサイタル【プロジェクト3×3 vol.3】

19時〜 東京オペラシティ・コンサートホール

  1. モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ変ロ長調K378
  2. ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第10番ト長調op.98
  3. ストラヴィンスキー:ディヴェルティメント
  4. プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第2番ニ長調op.94bis
  5. (アンコール)パラディス:シチリアーノ
  6. (アンコール)福田恵子:赤とんぼの主題による変奏曲

 テクニック凄いのにそれを売りにはせず、楽譜とその意図に深く踏み込む正攻法の演奏が展開された。従ってストラヴィンスキープロコフィエフもそれほどテクくは聞こえず、充実した音の連なりとして聴かせたのである。基本的には真摯なのだが、音が弾む愉悦そのものは横溢していて、これまた感心。だからモーツァルトも普通に素晴らしいのね。白眉はベートーヴェン、殊に第二楽章で、深々とした呼吸感と、それに伴う吸引力(会場の集中力も――それほどコンサート慣れしていないと見受けられる層が結構来ていたにもかかわらず――素晴らしかった!)は感動的。ベテランのゴラン(彼もまた素晴らしかった!)との息もぴったりで、対立関係にも主従関係にもない、イーブンにして幸福な協調関係があった。主客が本当に何もなくて、ただひたすら楽譜に奉仕している印象、どちらも相手に仕掛けないけれど、相手の音は本当にしっかり聴いている。ゴランはまあこういうの得意でしょうが、三浦さんの方が完璧にそれをこなしていたのが凄いなあ。いやスタンド・プレーを避けているのも大いに関係してるんだろうけれど、というかそれも含めて、これでまだ十代か……。末恐ろしいです。二十代で変な方向に曲がらなければ、巨匠化は確定するものと思われ。
 終わってみれば21時30分。2時間半はリサイタルとしては長い部類ですが、それを全く感じさせなかったのは凄い。というか本プロ終わった時点で21時10分過ぎてたからなあ。ご覧の通りかなりの重量級プログラムで、様式も結構ばらけてますが、それをしっかり描き分けていたことも特筆しておきたい。いやホント、貴公は本当に十代か?!
 なおベートーヴェンの演奏前には、ゴランが英語で、三浦が日本語で、それぞれ「この天国のように美しい曲を、大震災で亡くなられた方にも届けたいと思う」とスピーチ。その通り天国的な演奏になっていたような気がするのは、スピーチに引っ張られ過ぎかしら。でも本当に素晴らしかったんですって!