不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京交響楽団第589回定期演奏会

18時〜 サントリーホール

  1. シェーンベルク:室内交響曲第2番op.38
  2. メンデルスゾーン:ヴァイオリンとピアノのための協奏曲ニ短調
  3. ベートーヴェン交響曲第3番変ホ長調op.55《英雄》

 スダーンと東京交響楽団が至高の演奏を披露したし、ソリストたちも素晴らしく、極上の演奏会であった。
 まずシェーンベルクは、隈取りのはっきりした演奏で緩急がはっきりしており、緊張感と集中力は最初から最後までしっかり保たれ、聴き手を全く飽きさせない。リズムも弾んでいたが、音そのものに何とも言えない薫りがあり、暗くしかしロマンティックな曲想を丁寧に、そして勢いよく表現できていたように思います。協奏曲は、児玉桃の落ち付いた挙措の上で、テツラフが鋭くもきめ細かい音を自在に手繰っていて本当に見事であった。オケもビブラート控え目ながら、何ともいえぬ儚げな響きを出してソリストをよくサポート。
 しかし圧巻は何と言っても後半のベートーヴェン。低めのピッチでビブラートを抑え速めのテンポを採用する、ピリオド楽派を意識したスタイルでベートーヴェンをやる場合、私はシリアスさよりも快活さ・愉快さが先に立つと思っていたんですが、そんな底の浅い思い込みをスダーンと東響はいともあっさり覆しました。葬送行進曲たる第二楽章を待つまでもなく、第一楽章から響きがシリアス、もっとはっきり言えば暗い。でも音楽そのものは力強く、リズムも弾みます。オーケストラのアンサンブルは素晴らしく、弦も木管も一糸乱れぬ見事な演奏を披露。ハーモニー自体に艶があって、スダーンがえいと気合を入れてアクセントを強調する動作をすると、東響は一々それに完全対応し、中身のいっぱいつまった充実したサウンドを出して応える。低音部が分厚いサウンド構造では必ずしもないのに、どの総奏にもずしりと来る確かな重量感があります。スダーンによる音楽作りが各種パートをくっきり浮き上がらせるものだったこともあり、この名曲を隅から隅まで堪能させてくれました。響きとアンサンブルの精度が、最初から最後まで全く落ちなかったのも素晴らしい。第一楽章とフィナーレでの強靭なサウンド、ビブラートやこぶし等は一切抜きでひたすらストイックにしかしだからこそ痛切に響いた第二楽章、リズミカルな楽想をアンサンブルの快感ではなくテンションの高さの表れとして捉えたかのようなスケルツォ……。最初から最後まで圧倒されっぱなしでした。
 長年スポンサーを務めていたすかいらーくが業績不振で撤退したため財政が揺らぎ、地震によって本拠地ミューザ川崎を事実上失ってオケの音に悪影響が出るのでは懸念されている東京交響楽団ですが、音楽監督スダーンの下で、音楽的な黄金期に差し掛かりつつあるようです。次のスダーン来日は7月。暑い夏になりそうです。