不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

東京都交響楽団第715回定期演奏会

19時〜 東京文化会館

  1. (追悼演奏)J.S.バッハ:アリア
  2. エルガー:ヴァイオリン協奏曲ロ短調Op.61
  3. ブラームス交響曲第2番ニ長調Op.73

 都響にとっては前日14日のサントリーホールにおける同曲目の第714回定期演奏会が、3月11日の大地震後初めての演奏会であった模様だ。昨日と今日で都響は今年度の定期演奏会の幕を開けたわけだが、原発事故の影響で外来指揮者や外来ソリストの出演が危ぶまれるという波乱に満ちた年度になりそうだ。しかし、今回で18年ぶりの都響との共演となるモーシェ・アツモンは、原発事故をものともせず来日してくれて、予定通り演奏会を開催してくれた。しかも彼は、大震災の犠牲者に捧げられた冒頭のアリア演奏前に、マイクを持ってスピーチ。こういう時だからこそ来るべきだと思って来た、と言っていたのが印象深い。なお終演後は楽団員と一緒にロビーに登場して、大震災の義援金を募っていた。一人の日本人として、彼のヒューマニスティックな行動に感謝申し上げたい。
 しかし演奏が良かったかどうかは別の話である。以前と同じように、好き勝手に感想を記して行こう。
 ウェブ上での評判とは逆になるが、私は後半の方が気に入った。欠陥がなかったわけではない。全篇にわたってちょっと細かく指示し過ぎというか、「小細工」とまでは行かないもののアクセントにこだわる部分が多々見受けられた。それは音楽の流れを悪くする方向に働く危険性があり、事実ただでさえフレージングが短いフィナーレで特にマイナスに作用していたが、ぶつ切り状態にまでは至らず、それなりに充実した演奏となっていたように思う。第一楽章から第三楽章は特段文句なし。各パートにきっちり演奏させることを優先しているため、全体の音響バランスをあまり考えていない模様だったのは残念だが、まろやかな響きにはなっていなかったが、東京文化会館は丸みを帯びた音を出しても限界があるため、減点材料とはなるまい。オケもよく付いて行っており、力の籠った音が出ていた。そんなこんなで満足度は低くない。テンポは中庸、アクセント以外では特段変なことはやっておらず、ブラームス交響曲第2番がどういう曲かは十二分に伝わる演奏であった。
 一方前半の協奏曲だが、竹澤恭子がとんでもなくしっかり楽想を弾き込んでいるのはひしひしと伝わって来て、立派な演奏であったことは疑いない。しかしルバートが希薄だったため、非常に四角四面の演奏に聞こえてしまった。楽想が全然飛翔してくれないのね。えらくのっぺり聞こえたとも言う。曲も曲だけに、これはいただけない。バックのオーケストラも、リズムを消化し切れておらず、「立派」なソロの足を引っ張っていた。残念である。