不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

プレガルディエン&シュタイアー リート・リサイタル

15時〜 県立音楽堂

  1. シューマン:3つの歌曲 op.45
  2. シューマン:5つの歌曲 op.40
  3. シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D957より《アトラス》
  4. シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D957より《彼女の絵姿》
  5. シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D957より《漁夫の娘》
  6. シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D957より《都会》
  7. シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D957より《海辺で》
  8. シューベルト:歌曲集《白鳥の歌》D957より《影法師》
  9. シューマン:歌曲集《詩人の恋》 op.48
  10. (アンコール)シューマン:楽しい旅人 op.77-1
  11. (アンコール)シューベルト:憩いない愛 op.5-1, D138
  12. (アンコール)シューマン:月夜 op.39-1
  13. (アンコール)シューマン:いたみ op.39-9

 ハイネ特集。
 シュタイアーは基本的にフォルテピアノ奏者だが、乾燥した気候のせいで使用予定の楽器のコンディションが悪くなり、今回の日本ツアーではグランドピアノを弾くことになった。よって、グランドピアノでシュタイアーが聴けるという得難い機会に、期せずしてなったというわけだ。
 このシュタイアーのピアノが素晴らしかった。プレガルディエンのしみじみとした歌唱にぴたりと寄り添って、訥々と語りを入れるかのような、ひそやかな響き。むろん楽想が激しい演奏を求める場面では枷を外すのだが、彼の静的表現は、会場の灯りをそれほど落としていないにもかかわらず、スポットライトで歌手とピアニストのみを照らし他は闇に沈んでるかのような空気感を醸し出していた。失恋を歌詞に乗せた曲が多かった関係上、深淵を覗き込むような風情の演奏は大変似つかわしいものと思われました。というかシュタイアーはグランドピアノを弾くとこうなるのか。フォルテピアノ弾いてるシュタイアーは、録音聴く限り非常に饒舌かつフリーダムな印象があったんですけれど、まるで逆になるのね。
 プレガルディエンの素晴らしさは言わずもがな。声も「うほっいい声」だし、俺は語学力全然アウトなんですが、それでもディクションが凄いことはひしひしと伝わって来る。音程の精度も高い。品もあって、感情移入をしつつも詩の主人公と同化まではしていない姿勢も見事なものでありました。本プロのシューベルトでは、まだ5曲しか終わっていないのに勘違いした人が拍手始めてましたが、それをすっと手で止める挙措も様になっており、客席とのコミュニケーションもなかなかのもの。
 当日の客は、余韻をあまり楽しんでおらず、拍手がやや早めだったように思われました(前半の最後や《詩人の恋》では、プレガルディエンは下向いてじっとしていて、もうちょっと沈んでいたかったように見受けられた)が、嫌な顔一つせず、4曲もアンコールしてくれたのは幸い。しかもどうも最後の1曲は予定外だったっぽい(歌いだす前に、プレガルディエンとシュタイアーでこそこそ打ち合わせてました)。拍手自体は大変力の入ったものだったので、そのタイミングはともかく、客には好印象を持ってくれたということでしょうか。だったら良いな。