不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団来日公演(川崎公演)

18時〜 ミューザ川崎

  1. マーラー交響曲第3番ニ短調

 随所で細かいミスはあったけれども、それはこの90分を超えるロマン派末期の交響曲にあっては仕方のないこと。素晴らしいオーケストラであることに変わりはない。個別奏者で見ても、トロンボーンとポストホルンは見事だったし、ホルン隊のハーモニーが柔らかいのは、その一事をもってこのオケが一流であることの証明となるだろう。
 さて演奏内容である。第一楽章は割とガサガサした音で、おやと思わされたが、よく考えるとこの楽章は作曲者曰く「岩山を描いた」わけであり、この固さは意外としっくり来る。まあ故意にやっていたかどうかは知らない。ただしこの時点で既に在京オケとの地力の差は明白で、普通こんなにスムーズにかつリズムも際立たせた第一楽章は実演ではお目にかかれない。このクラスのオケでマラ3やったからこそこのサウンドは出て来るんだなと感心しきりであった。でも繰り返すが、表現がちょっと雑だったのも事実。その後も第5楽章まで何となくギクシャクしたところが付きまとったが、楽章が進むにつれて次第に調子を上げて行ったのは何よりであった。
 もっとも、これにはヤンソンスの音楽作りも影響していると思われる。ヤンソンスは変に“演出”に走らず、この複雑な交響曲の素材をそのまま音にしていた印象が強い。むろん最上の音響バランスで聴かせようとしているのだが、基本の解釈は割と素直なものだ。そうなると、この交響曲の歪な姿――個人的には、マーラー交響曲の中では一番不安定で無軌道だと思う――がはっきり出てしまうように思われた。むろん素晴らしい瞬間は素晴らしいし、フィナーレ(第6楽章)で感動の帳尻を合わせて来る。しかし、やはりそれまでの五楽章がとても奇妙な音楽になっているのは否定できまい。それを豪壮華麗なサウンドでまざまざと見せ付けた演奏であったように思われた。そしてフィナーレは流石の出来栄え。あの弦はもはや反則級。こういう音が日本のオケはまだ滅多に出せないんだよなあ。
 声楽ですが、ラーソンは無難に出番をこなし、新国立劇場合唱団、TOKYO FM少年合唱団もなかなか良かったように思う。もっと繊細にやってくれよ、と心のどこかで思ってしまうのは多分スウェーデン放送合唱団の後遺症である。
 フィナーレの最後の音を出し終わった途端に間髪入れず拍手が盛大に始まったのは残念であった。演奏中は非常に静かだったのに、あまりにも勿体ない。もっと余韻というものを味わおうとしてもバチは当たらないと思うんだけどなあ。