不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK音楽祭2010 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

18時〜 NHKホール

  1. J.S.バッハ:ミサ曲ロ短調BWV232

 美しいフォルムと美しい合唱で綴られた、淡く儚い慰安の調べ。むろん盛り上げるべきところは盛り上げ、楽しげにリズムを弾む場面もあるのだが、それらは悉く長くは続かず、すぐに幽玄の世界に戻って行く。全曲通して美しく提示された救済はあまりにも儚く、脆い。救済には過酷な現実を越える力などないと言っているかのように。
 シェーンベルク合唱団、アーノンクールの繰り出す細かい指示に完全対応。ニュアンス付けがとてつもなく精緻でびっくりしました。出て来る音そのものはスウェーデン放送合唱団の方が綺麗だと思いますが、こっちは指揮者の演奏方針にぴったりと寄り添う趣が強く、これはこれで素晴らしい合唱団だと思う。コンツェントゥス・ムジクスも素晴らしい。アーノンクールの指示に細かく対応するのは陶然として、音そのものが実に雅。あの巨大なNHKホールでも、古楽器ならではの味わいをしっかりホール隅まで飛ばし、ニュアンスすかすかという事態を回避。管中心に若干の瑕が見受けられたが、それらも「儚さ・脆さ」の味をむしろ強めていたのが印象的である。ただしホルン、おめーは駄目だ。あれは酷かったな。
 というわけで、本当に素晴らしい演奏会となりました。これが最後の来日と言わず、せめて後1回ぐらいは来ていただきたいものだが……。