不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1679回定期演奏会

  1. ベルリオーズ:歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲
  2. シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47
  3. (アンコール)アルメニア民謡の何か
  4. ベートーヴェン交響曲 第7番 イ長調 作品92

 今シーズン初っ端は、貧民席から見るN響定期となりました。指揮者は御歳86となるマリナーですが、歳の割には非常に元気。指揮台でも特に椅子を用意せず、背筋を伸ばして各方向に指示を飛ばしてました。どんな人でもここから数年で一気に老け込むものですが、できるだけお元気でいられることを願ってやみません。
 演奏はリズムやパート分離よりも、横の流れとマスとしての響きを意識したもの。ベルリオーズは「もうちょっと内声部強調してくれたらなあ」と思わせる箇所がないではなかったですが、ソフトだが芯のあるサウンドをオーケストラから引き出して、全体としては見事な出来でした。ベートーヴェンでは更にその性格がはっきり出ていて、「舞踏の神化」とまで称されるリズミカルな楽想の数々を、刻みが強い部分に至るまで、普通にメロディーとして把握されておられました。必然的に音楽は、弾むというよりも流れることになります。しかしこれはこれで魅力的。この曲は完全にリズミカルなものとして定着して来ていますが、そういう固定観念と「ユニークなことをしてやろう」という我を捨てた上で横の流れを意識すれば、確かにこういう音楽になります。こういう演奏は実演だと初めて聴きましたが、新鮮な印象を受けずどこか懐かしい感じがしたのは、温かい音色のせいでしょうか。NHK交響楽団は真に鋭角的な表現を苦手として、ややもすればズンドコ節になるオケなんで、その点からも相性はばっちりだったように思います*1。なおテンポは標準よりもほんの少し遅めだったかな。
 問題はソリストのシモニアン。暖色系の音色はそれなりでしたが、リズム感が悪いのか、特に自分が刻んでいない箇所でややもするとオケとずれそうになる(そういう部分では、指揮者の譜面を覗き込みながら弾いてたな。まさか暗譜が万全ではなかったのか? だったら諦めて譜めくり付けようぜ)。実際ずれちゃった箇所もあったような。第一楽章とフィナーレではリズミカルな楽節を扱いかねており、正直あんまり評価しかねます。それでもなお拍手を惜しまない優しい聴衆相手に、リズミカルな要素を意識せずに済むアルメニア民謡を弾いてました。別に聴かなくてもいい人だと思います。

*1:この箇所は、常日頃のN響を誉めているわけでもありませんが、貶しているわけでもなく、単純に特性を述べているものとお考えください。