不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

日比谷公会堂 設立80周年記念事業「あのときの感動を再び」NHK交響楽団演奏会 Part2

日比谷公会堂 19時〜

  1. ベートーヴェン交響曲第9番ニ短調作品125《合唱つき》

 数年前、マイミクだった人がmixi日比谷公会堂のことを「日本のカーネギーホールと呼ばれている日比谷公会堂に行って来ました」などと書いていて衝撃を受けたことがある。いや確かに昔はここで多くの演奏会がおこなわれていたけれど、既にそれは「歴史」であり、1970年代以降は完全に他のホールにお株を奪われている。設備が古いこともさることながら、演説のための施設なので、響きがデッドなんですよね。……などと偉そうなことを言っておきながら、私は日比谷公会堂に行ったことがなかった。そう、今日まではだ。
 聴いてみたところ、やはり響きがとんでもなくデッド。オーケストラの総奏も、残響をまとわずすぐに消えて行きます。「減衰」なんて暢気な消え方はしません。本当に「音が出されているかいないか」なんですよね。ただし音の通りは素晴らしく良い。舞台と客席の距離は近い(NHK交響楽団の面々が本当につまらなそうな顔をして弾いているのが手に取るようにわかりました)し、これは人によっては「好き」なホールになるかも知れません。個人的には、さすがにこれは音に雰囲気なさ過ぎて駄目だと思いますが……。曲目も選ぶだろうなあ。ベートーヴェン交響曲なら、第九じゃなくて他の曲の方がいいかもね。
 演奏は、井上道義らしく極めてオーソドックスなスタイル。ヴィブラートもかけてますが、テンポは速めで、さくさく進行。熱もこもっていて、なかなかによろしかったんじゃないでしょうか。管を中心に若干アンサンブル上の乱れもありましたが、実演だし許容範囲内。超デッドなホールの音響特性ゆえ、繰り返しますが「雰囲気」は出ていませんでしたが、その分、極めて真っ当なアプローチで楽曲に取り組んでいるのが手に取るようにわかったのは面白い。こういうこと書くと曲解されそうだけれど、楽曲・演奏を分析的に聴くにはいいホールだと思います。四の五の言わず雰囲気に浸りたいときはアウトかな。声楽は、バリトンが音程的にちょっとアレで、テノールは声が小さかったですが、まあでも怒り出すほどのことはない。合唱はまあ、スウェーデン放送合唱団の後に聴いたので、コメントは差し控えた方がいいと思います。下手ってわけじゃないしね。
 なお、客席には65年前の6月にここで第九歌ったという92歳(!)の男性がいて、演奏後、指揮者に促されて2階の一番後ろですくっと立ち上がり、満場の拍手にこたえてました。合唱団の中には89歳の男性もいらっしゃって、いやあ最近はお年寄りでも元気な人は本当に元気だなと。お二人とも普通にスーツ着て動きも矍鑠たるもの、ああいう老い方なら音楽聴けそう(事実、あの急斜面の2階席に入れるぐらいには元気)だし本も読めそう、俺もああなりたいものです。……生活を見直すか。