不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団第1677回定期公演

NHKホール 15時〜

  1. フォーレ組曲ペレアスとメリザンド」作品80
  2. フランセ:クラリネット協奏曲
  3. (アンコール)ベーラ・コヴァーチェ:マニュエル・ド・ファリャへの讃歌
  4. サン・サーンス:交響曲第3番ハ短調 作品78

 びっくりした。なんと、良かったのだ。あのアシュケナージの指揮なのに、満足感と共に会場を後にできたのは、大袈裟に言えば一種の奇跡である。
 当日のアシュケナージは、大きく構えてオーケストラを存分に鳴らすというもの。これがどの曲目にも意外と合う。まずフォーレでは、曲趣がシンプルなためか細部にも十分に気を回せた、水準を維持した演奏になっていた。音色が温かかったのが一番大きいか。もっと軽妙にやれないこともないだろうけれど、まずは満足。続くフランセは、オーケストラの伴奏の聴きどころが基本的に個人技を要求されること、そして編成は大きいが曲趣は「巨大な室内楽」といった按配であるため、逆説的に指揮者の弱点が目立たなかった。恐らくアシュケナージは、それほど強いリーダーシップをとろうとしなかったのではないか。彼の息子ディミトリと一緒に演奏しているのは、あの曲では父ウラディーミルではなく、NHK交響楽団の各奏者であったように思う。なおその息子ディミトリだが、一部ミスは散見されたものの*1、決して七光りではない確かな実力者であると感じ入った次第。正直フランセはあんまり聴いたことないんですが、他の曲や演奏を聴いてみたいと思わせる魅力はある演奏になったと思う。ただしステージ・マナーは、1969年生まれという年齢を考えると、不気味なぐらいシャイ。親父と共演時にこれだと、コンサートに行って聴覚よりも視覚優先する人から、縁故だとか言われちゃいますよ。
 メインのサン=サーンスは、「オーケストラを存分に鳴らす」というスタンスが素晴らしくプラスに寄与した演奏で、デュトワ辺りだったらもっと緻密なサウンド作ってくれるんでしょうが、細かいことを言わず気にせず、かと言って弾き飛ばすわけでもなく、しっかりと音を鳴らしていくスタンスでした。多少混濁しても、この曲の場合は「オルガンをイメージしてますからクリアな音にはしませんでした。横で実際にオルガンも鳴ってますが」と言えば切り抜けられる側面もあるので、気になりません。構成もしっかりした曲*2なので、ドヴォルザークのような惨状にはならないのも吉だったか。オーケストラも気力十分で、非常に充実した演奏になりました。スケルツォ部はリズムの処理が甘く、この指揮者と合わない事実には変わりないけれど、いつものような生理的嫌悪感がないどころか、十二分に満足して、力の入った拍手とかしちゃいましたよ。大嫌いな指揮者が決して好きではないオケと、大嫌いなホールで演奏しても、こういうことが起こり得るんだから、コンサート通いは止められないのです。

*1:ただし曲はアンコールも含めてかなりの難曲。実演であればあの程度のミスは仕方がない。

*2:「各楽章(注:実質ベース)の中では楽想上は同じこと繰り返してるなあ」と思わせないでもない曲だと思います。それでも退屈ではなく、何だかんだ言いつつ盛り上がるから凄い。