不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

NHK交響楽団 第1673回定期公演

15時〜 NHKホール

  1. ラフマニノフパガニーニの主題による狂詩曲作品43
  2. ラフマニノフ交響曲第2番ホ短調作品27

 昨日の演奏会を貶す気は全くありませんけれど、人間、素直な実感を述べるのが一番だと思うので書きます。今日のN響の定期公演において、私は「ちゃんとデクレッシェンドしとる!」「ちゃんとアクセント付いてる!」「ちゃんとルバートしてる!」「出もアインザッツも揃ってる!」「パートが分離して聞こえる!」「pがちゃんとpだ!」など、当たり前のことにいちいち感動して、演奏内容の評価が上ぶれしてしまっている可能性があります。CDでは超メジャー・オーケストラの演奏を聴き、コンサートでもプロのオケを複数回聴く、という体験をしますと、少々のことでは「めちゃくちゃ上手い」などとは思わなくなるものですが、その結果、当たり前のことを当たり前にする素晴らしさを忘れがちになります。ですが昨日と今日で、その基本こそが大切なのだ――もっと言えば、その基本だけでも十分素晴らしいものになり得るということを教えてもらったような気がします。
 とはいえ、このような感想を持つに至ったのは、日本一と言われるオケの技量もさることながら、尾高忠明氏の誠実極まりないアプローチによるところも大きいように思います。相手はラフマニノフですから、メランコリックなスタンド・プレーにも、走ろうと思ったら走れます。しかしそこはぐっと抑えて、愚直なまでにスコアを信頼して、最後期ロマン派の華麗なオーケストレイションと旋律美、そして構成美をじっくり描き出していました。オーケストラもしっかり掌握されており、細かいミスは混入しましたが、「ちゃんと」演奏することを最重視しているのはビンビン伝わって来ます。中身の詰まった、充実した音楽が聴けたことを、本当に嬉しく思います。面白いのは、こういうアプローチにもかかわらず、白眉となったのが交響曲のメロディアスな第3楽章だったということ。メロディーに耽溺するのではなく、構成に重点を置いた解釈だったように思うのですが、それでもなお旋律美は隠しようがない。誠実な演奏だと、自然と曲の特徴が表面に出て来るということなのでしょうか。
 小山実稚恵のピアノも、真面目な奏楽で、尾高さんとの相性は抜群であったように思います。若干のミスはありましたが、それは多分大したことではないはずです。