不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

リビドヲ/弐藤水流

リビドヲ

リビドヲ

 凶器不明の残虐な連続殺人が発生。容疑者として妻を残して失踪した男が浮上したものの、彼には人を殺す動機がない。捜査は迷走するが、事件には日本映画黄金期、昭和30年代のある未完成映画が関係していることが判明した。残された妻、失踪した男の友人、刑事。それぞれが真相解明に動くが、彼らがたどり着いた驚愕の結末とは?

 作中の未完成映画は阿部定事件を扱ったもので、主役の男優が次第に憑かれたような感じになって行くのが印象的であった。本書は全350ページで、230ページまではミステリ、以後はホラーである。鈴木光司の帯コメ曰く「2009年の『リング』」。まあ確かにそういう面はあるけれど、ストーリー・プロット・キャラクター・文章など全てにおいて荒削り過ぎる。先述のように映画の内容が阿部定(しかも題名が題名)で、舞台は日本映画黄金期かバブル期ということも影響し、全体的には良くも悪くもかなり猥雑だ。もっと整理すれば水準以上の出来になったろうにと残念に思う。SF的な見方をすれば、量子論の使い方がとって付けたようで感心しなかった。総合的には、要素自体はそこそこ、しかし各所で粗が目立つということになるだろう。ドロドロした情念は特徴的――登場人物の情念なのか、小説の下手さゆえ作者本人の「小説を書きたい」という情念が行間に出てしまっているのか、判然としないきらいはあるが――なので、次に期待したい。