不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

宇宙細胞/黒葉雅人

宇宙細胞

宇宙細胞

 日本の南極探検隊が、南極の分厚い氷の下から秘密裏に吸い上げた物体――それは、実は動物を皮だけ残して食らう凶暴な食性の粘体生物だった! 東京に持ち運ばれたその生命体は、しかしひょんなことから施設外に持ち出されてしまう。かくて地球の動物類は、発生以来最大の危機に見舞われるのだが……。
 いくら何でもこれはねーよ、と笑いたくなる馬鹿馬鹿しいネタが最後に炸裂する。アホらしくも壮大なヴィジョンには一見の価値があるだろう。しかし作者の小説作りがいかにも下手で、作品に致命傷を与えており、真っ当な評価を下すのは不可能に近い。張子のような人物造形、取ってつけたような人間ドラマなどはいただけない。ヒロイン(?)の能力がどう見てもミギーの左手版だったり、綾波嬢またはカヲル君よろしく「顔が雲の上に出る」など、ステキなシークエンスも多々あるのに、全てがいまいち活かされていないように思う。終盤で明かされるバカSFネタも、それまでのパニック小説・破滅SFとしての流れとほぼ切り離されたところで提示されるので、作品内での収まりもあまりよろしくない。さりとて、文章も弱いので力技で持って行くわけにも行かん。惜しい作品である。