タナーと謎のナチ老人/ローレンス・ブロック
- 作者: ローレンスブロック,Lawrence Block,阿部里美
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/09/01
- メディア: 文庫
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今回もまたもの凄い、あり得ない展開の数々で物語を引っ張る、という趣向のバカミスとなっている。ナチス・シンパとユダヤ・シンパを演じ分けることなど初歩の初歩、といった感じで、ニンフォマニアのナチスのヒロインを前にして、性欲を抑えるために「こいつはナチスだ、ナチスなんだ」と必死に自戒するところなどかなり可笑しい。その後も随所で相当な無茶をやらかします。ただし、『快盗タナーは眠らない』に比べて冒険の焦点ははっきりしているし、かつテーマもテーマなので、そうそう軽い話でばかりもいられない。ヘニング・マンケル『タンゴ・ステップ』でも示されたように、ナチスは21世紀に至っても、まだまだヨーロッパ社会最大のタブーの一つであり続けているのだ。ましてや『タナーと謎のナチ老人』は1966年の作品であり、どこかで深刻かつ真摯な主題を打ち出さざるを得ない。本書の締めは、沈み込むような情感を湛えており、本書が決して「笑える」だけの小説ではないことを明らかにしている。
というわけで、単に愉快な話、という側面は前作よりも後退したが、代わりにテーマ面ではかなり整った話となっている。無茶な展開に目がないと同時に、少々の《陰》もまた一興、などと楽しめる人には、強くおすすめしたい。