不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

スカラ・フィルハーモニー管弦楽団来日公演(東京1日目)

於サントーリーホール:19時開演

  1. メンデルスゾーン交響曲第4番イ長調op.90 《イタリア》
  2. マーラー交響曲第1番ニ長調《巨人》
  3. (アンコール)ヴェルディ:歌劇《運命の力》序曲

 しばらくぶりのタグ「演奏会」更新である。と言ってもこの間全く行っていなかったわけではないが、今シーズン(クラシックのシーズンは大体9月始まり)最初のコンサート行脚と合わせて、blogでのエントリを再開したということです。
 スカラ・フィルというとイタリア最高峰の歌劇場(=鉄板で世界最高の歌劇場の一つ)ミラノ・スカラ座のオケというわけで、カンタービレ方面で期待が高まるわけですが、この歌劇場にポストを持たないチョン・ミョンフンとの公演というのが良くも悪くも不確定要素。当楽団の前首席指揮者にしてスカラ座本体の音楽監督でもあったリッカルド・ムーティと華々しく喧嘩別れしてしまった後なので、本体もオケも方向性を模索中であり、客演然とした指揮者との来日も仕方ないが、それが逆に楽しみでもある。
 結果は、推進力を最重視するチョン・ミョンフンの姿勢と、スカラ・フィルのいついかなる時でもカンタービレを出す性質が相乗効果を生んで、なかなか面白い公演となりました。前半の《イタリア》からそれは明らかで、飛び跳ねるリズムももちろん無視されているわけじゃないんですが、指揮者はどちからというと「横」であるところの「音楽の流れ」を自然に醸出することに注力、それにオケがこれまた「横」であるところの「歌」を乗せていくという……。明るい音色と早いテンポも相俟って、活気が出たこともあって快活な演奏になりました。ただ個人的なことを言うと、この曲に関してはブロムシュテットライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の実演がこびりついており(この曲で泣いたのは、空前だったし恐らく絶後になるのではないか)、どうしてもそれと比べてしまうので「感動したっ!」とは言えない。とはいえ愉悦に満ちたひと時を過ごせたのは事実、前半からブラヴォーが出ていたのも故なきことではありませぬ。
 後半の《巨人》も同傾向の演奏。この交響曲は、マーラーの中では一番「楽想がとりとめなくはない」ので、推進力重視で楽想の描き分けをあまり強調してくれないチョン・ミョンフンには一番合っているような気がします。これにオケがカンタービレ乗せてくれるんですよ。設計としては言うことなし。第3楽章では、指揮者も珍しくこぶし利かせてくれたしなあ。
 ただし、全演目でオケに粗が目立ったのは事実です。カンタービレが一々決まっていたので、ダメな演奏だったとは爪の先ほども思いませんが、俗に言う一般参賀に値する演奏だったかというと微妙。オケが指揮者にいまいち慣れていなかったのかも。アンコールの《運命の力》などはさしずめその象徴で、前半のカンタービレはガチで素晴らしくこれぞイタリア歌劇場オケの必殺技という感じだったんですが、構成で聞かせる局面が多くなる後半はやや冗長。まあ私がそう「聴いた」のは席の関係かも知れませんがね。席によって聞こえ方が違うから、クラシックのコンサートというのは本当に難しい……。