不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

七番目の仮説/ポール・アルテ

Wanderer2008-09-03

七番目の仮説 (ハヤカワ・ミステリ 1815 ツイスト博士シリーズ)

七番目の仮説 (ハヤカワ・ミステリ 1815 ツイスト博士シリーズ)

 巡回中の巡査は、中世のペスト流行期の医者の格好(画像参照)をした不審人物を見つけたが、すぐに見失ってしまう。その後、今度はゴミ箱を漁る紳士(でも臭いは酷い)に遭遇。この男はからから笑ってその場を去ってしまったが、彼が覗き込んでいたゴミ箱から青年の死体が発見される。調べてみると、何とこの青年は前夜、下宿から、ペスト流行期の医者の格好をした男たちに「彼はペストにかかっている」として連れ出されそうになったが、衆人環視の廊下から消え失せてのだ! そして事件の背後には劇作家と俳優の対立がある――とご注進してくる人物が登場した。
 粗筋紹介だけで結構ゴタゴタしてしまったが、これはまだ序盤に過ぎない。この後もストーリー上には不可思議な謎やシチュエーションが次々に繰り出され読者を幻惑する。解決編に至るまでのカオス度は、既訳のアルテ作品中、一、二を争うだろう。しかし最後はしっかりまとめてくるのだから、さすがはアルテといったところである。人間関係もドロドロしており、鬼気迫る「業」を必要十分に表出して雰囲気を盛り上げる。ケレンの強い本格ミステリが好きな人にはたまらない作品となるはずで、今年の夏もまたアルテの夏になったなあと(本格ファンとして)思われるのであった。