肺魚楼の夜/谺健二
- 作者: 谺健二
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/08/21
- メディア: 単行本
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本格ミステリのネタはてんこ盛りである。タイトルにもなっている肺魚の怪の真相はシンプルで、良くも悪くも脱力ものだ。深刻に語られる某クライマックスは、真相がわかっている人には非常に滑稽に映るだろうが、私は結構好きである。タイムスリップして撮って来たかのような写真の謎は、若干わかりやすいがまずまずの出来だと思われる。そしてもう一つのあるネタは、人間ドラマを反転させて、サプライズとともに、震災に人生を引き裂かれた者の悲哀を読者に伝える。そして作者の関心は、やはり阪神淡路大震災にあるのだ。
谺健二は本書で、忘れられつつある阪神淡路大震災を本格ミステリの力を借りて読者の心に留めおこうと欲した。それを(他地域や政府に対する)恨み節という形で表さず、被災者たちの緩やかな精神的回復を通して成し遂げようとしているのは素晴らしいことだと思う。「精神的回復」の一部が都合良過ぎ、不満もそれなりにあるが、その心意気や良しとしたい。