不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

最後のユニコーン/ピーター・S・ビーグル

最後のユニコーン (ハヤカワ文庫 FT 11)

最後のユニコーン (ハヤカワ文庫 FT 11)

 その森に住む雌のユニコーンは、ある日、狩人たちがユニコーンたちが最近どこにもいなくなったと話しているのを物陰から聞いていしまう。自分が最後のユニコーンかも知れないとの思いに駆られた彼女は、他のユニコーンを探す旅に出る。その旅の途中で、彼女は自分を助けてくれる腕の良くない魔術師に出会い……。
 ファンタジーということで、実際に幻想的なシーンや設定が続出するのだが、本書は事実上の寓話といえよう。意味深でひょっとしてこれは警句なのか、という文章が地の文にも台詞にも頻出し、登場するキャラクターの心理は、かなり婉曲的にだが緻密かつ繊細に描かれる。リアリスティックな箇所はほとんど皆無で、物語の全てに神秘的な霧がかかっているような独特*1の読み口は、最初のうち戸惑うかも知れないが次第に癖になって来る。優しく温かいだけではなく、悲しくて冷たいこともよく起きて、物語の情感には隈取が付けられている。そしていつの間にか感動している自分がいたわけだが、そう思う人はどうも少なくないようであり、だからこそ復刊されたりもしたのだろう。
 ストーリーラインだけに注目する読みは意味を為さないが、その点にも十分対応できる人には、強くおすすめしたい。もっとも、楽しみ方は一様ではなくなろう。それこそが素晴らしい寓話の特徴であるからだ。

*1:これを独特だと思うのは、単にミステリとSF以外を私が読み付けていないだけなのかも知れないが。