不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

発狂した宇宙/フレドリック・ブラウン

発狂した宇宙 (ハヤカワ文庫 SF (222))

発狂した宇宙 (ハヤカワ文庫 SF (222))

 3日前に出会ったベティに恋するSF雑誌編集者キースの上に、運悪くもロケットが墜落して来る。だがキースは死なず、パラレル・ワールドに転移した。通貨単位はクレジット、月人も地球にわんさかいて、宇宙へのワープ技術も開発されていた。そして地球は不気味なアルクトゥールス星人との宇宙戦争の真っ最中であり、不用意にドル貨幣を商店に提示したキースはアルクトゥールス星のスパイと疑われて追われる身となってしまう。だがキースにとって一番衝撃的だったのは、この宇宙でのベティが、ドペルという男の婚約者であったことだ。ドペルは、大作家に大科学者にして大将軍、そして目下宇宙戦争の総指揮を採る地球の大英雄なのである! キースに勝ち目はあるのか?!
 無茶苦茶な宇宙に飛ばされた男の、てんやわんやの大騒動を描く小説である。厳密な考証ではなく、シンプルだが壮大なアイデアにもとづいた奇想天外な物語だ。1949年の作品であるが、既にSFの愉快なパロディになっており、このジャンルの成熟の早さが窺い知れる。ユーモア小説としては、それどころではあるまいに、キースがドペルに敵愾心を燃やすところと、あれよあれよという間にキースが宇宙戦争に巻き込まれるところだろう。スパイと疑われて「奴はスパイだから発見し次第すぐに射殺せよ」との(一見無茶な)指令が発せられるというところも笑える。
 既に古典的な作品であるが、登場人物が活き活きしているので、非常に楽しく読める。広くおすすめしたい。