不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

きみの血を/シオドア・スタージョン

きみの血を (ハヤカワ文庫NV)

きみの血を (ハヤカワ文庫NV)

 差し出した手紙の文面の異常性を上官に問われたジョージ・スミスは、コップを握り潰して上官に襲いかかった。しかし流れ出る自分の血を見るや、急におとなしくなってその血を吸い始めたのだ。彼の異常な言動の裏には何があるのか?
 吸血鬼譚の現代社会風変奏曲である。ジョージ・スミスの数奇な人生を非常に淡々と(彼の外部の視点から)描き出すが、粗野で知能が低そうな行動をとる彼には、明らかに温かい視線が注がれている。はっきり言えばジョージは「キモい」奴であり、その不気味さは(はっきり明示されないものの)終盤で頂点を迎える。しかし、スタージョンは彼の異常性を拒まず、人間のあり得る一態様として受け容れ、主人公を調べる登場人物たちもジョージに特段怖気を振るわない。これはスタージョンを特徴付ける「優しさ」、即ちスタージョン印に他ならないのだ。この手の話を「優しさ」で包むことは、まさにスタージョンにしかできないことだとも思う。ファンは必読である。