不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

地獄のハイウェイ/ロジャー・ゼラズニイ

地獄のハイウェイ (ハヤカワ文庫 SF 64)

地獄のハイウェイ (ハヤカワ文庫 SF 64)

 全面核戦争後の荒廃した北アメリカ大陸を、西海岸から東海岸へ向けて、ほとんど戦車のような巨大な車で横断する話。目的は血清の緊急搬送で、主人公はアウトローだが練達のドライバーのヘル・タナーである。途中で彼は、核戦争のため激変した気象、放射能によって巨大化した生物、武装暴走族などに襲われると共に、内陸部で生き残った人々とも出会う。
 自虐的かつ露悪的な減らず口を叩くタナーは、正義のヒーローではない。それどころか素性はむしろ悪党である。この任務に就いたのも、自分が過去に犯した罪に関する司法取引の結果に過ぎないのだ。しかし請けた以上、彼はこの任務を最後まで果たそうとするのである。そこにはプライドがあるのだ。もっとも、内面描写は皆無なので、彼の本音の所在は読者には明示されない。ワルでニヒルな雰囲気を強く漂わせながらも、女子供には意外と優しいところを見せたり、悲惨な現実を垣間見たとき毒づいたりするシーンから、我々は彼の本性を読み取ることになる。もっともこれは特段難しいことではない。一言で言って、タナーは典型的名ダークヒーローなのである。そして終始それを貫き、善人の方向に変節することはない。このカッコ良さはある種の男のロマンであって、やはりちょっと痺れてしまうのである。特にラストなんか、とてもいいじゃないですか。
 そんな彼を、簡潔な筆致が的確に描写する。本書は総合的にもなかなかカッコいい小説なのだ。さすがは『伝道の書に捧げる薔薇』の作者だ。SF史上に屹立する大傑作、というわけではないが、カッコいい小品が好きな人には強くオススメしたい。