宇宙船ビーグル号/A・E・ヴァン・ヴォクト
- 作者: A.E.ヴァン・ヴォクト,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1978/05/01
- メディア: 文庫
- 購入: 7人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (29件) を見る
しかし、空想科学の描写や考証は全般に雑駁である。さらに、彼らは敵対するものは何はともあれ即座に撃滅・殲滅すべし、という単純な対応をとるのだが、その割には、未知のものに簡単に接近して接取するなど、初期対応が杜撰に過ぎる。「地球を代表する」はずの科学者たちの思慮は極めて浅いのである。さらに、1000人もいる乗組員に女性が誰一人いないのは、執筆当時は当然であったかも知れないが今となってはやはり古さを感じさせる。敵の方の設定にも問題なしとはしない。ケアルもそうだが特にイクストルは、高度な知性を持っているはずなのに、やることなすこと全て野蛮である。リーム人とのエピソードも、ファースト・コンタクトものとして見た場合は、いかがなものかと言わざるを得ない。とはいえ、生物の設定にも人類の対応にも一番引っかかりの少ないアナビスのエピソードは、むしろ「何もない」ので物足りない。
というわけで、読者は「エンタメっすよエンタメ!」と割り切って、作品で提示される視座の高さなどは全く気にしないスタンスで臨むべきである。そうすれば混じり気なく楽しめるだろう。
*1:出会う相手は順に、ネコ科の大型獣に似たケアル、鳥に似ておりテレパシーを操るリーム人、宇宙よりも町名で宇宙空間でも何億年も生存可能なイクストル、超巨大生物アナビスである。