不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

キング・オブ・スティング/マシュー・クライン

キング・オブ・スティング (ハヤカワ文庫NV)

キング・オブ・スティング (ハヤカワ文庫NV)

 息子の借金を返すため、大仕事を目論むベテラン詐欺師の活躍を描く。コン・ゲーム小説のお手本のような作品で、メインとなる大掛かりな詐欺事件も面白いが、種々の詐欺の手口を説明するコラムのようなパートも雰囲気を盛り上げている。軽妙洒脱な語り口の中、不肖の息子を持ったお父さんの悲哀などペーソスもしっかり描かれており、さりとて救いや癒しなどの「小説に意義を求める」要素もない。登場人物には悩みこそあれトラウマはないのだから当然だけれども、エンターテインメントに徹した書きっぷりは読んでいて爽快である。
 新刊としてはあまり目立っていないようだが、楽しくて軽い読み物*1として、『キング・オブ・スティング』は素晴らしい。おすすめです。

*1:軽い読み物を馬鹿にする方は、一生、重くて暗くて人生や社会の意味を厳しく問い直す小説だけを読んで死んで行けばいいと思います。