カラスの親指/道尾秀介
カラスの親指 by rule of CROW’s thumb
- 作者: 道尾秀介
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/07/23
- メディア: 単行本
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本書の基調をなす、洒脱かつどこか空とぼけたやり取りは、伊坂幸太郎を思わせる。何らかの小噺やキーワードに主題や人物を象徴させるところも、伊坂の作風と共通している。さらに、コン・ゲーム小説である(しかも主人公たちは下流市民に属する)ことも、伊坂の一部作品との共通点となるだろう。しかし当然のことながら、『カラスの親指』には道尾ならではの要素もあり、二番煎じなどでは全くない。主人公たちはそれぞれに過酷な体験を経てきたわけだが、一致団結して共通の敵と対決し、これが最終的に彼らの救い・癒しとなって昇華されていく。道尾秀介の持ち味そのものであるし、ストーリー通して施された仕掛けが有機的に関与するのもまた実に「らしい」。さらに、誰もが指摘することだが、終盤の心憎い構成によって、読者の心に真相の温かさが染み入るだろう。おまけに、読了するとタイトルの意味に唸らされるのだ。二重三重のミステリ的要素は、今回もまた「人間を描く」という大命題に貢献しているのである。
個人的には、そろそろ残酷な物語が読みたくなってきたのも事実である(道尾秀介は、『向日葵の咲かない夏』に浴びせられた、一部の批判を真に受け過ぎているのかも知れない)が、『カラスの親指』が作者による技ありの良作であることは間違いない。おすすめです。