不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

爆発的――七つの箱の死/鳥飼否宇

爆発的 七つの箱の死

爆発的 七つの箱の死

 綾鹿市の大物実業家・日暮百人は、引退後に私財を投げ打って鳥搗とりつく島の半分を買い取り、奇妙な私設美術館を設立した。そして、新進評論家の樒木侃をキュレーターとして2年間限定で雇い、6人の芸術家をその美術館に呼び寄せて館内で創作に当たらせるプロジェクトを立ち上げる。樒木は勇んで参画して来たが、招いた芸術家たちが一人、また一人と殺されていく……。
『痙攣的』はアレが色々な意味で強烈で、読者の頭からそれ以外の要素がトンでいてもおかしくない。よって忘れられているかも知れないが、『痙攣的』は前衛芸術を存外真面目に描いた作品であった。前衛を面白おかしく囃し立てるのは誰でもできるが、鳥飼は取った、アーティストのラディカルな思想に向き合う姿勢は真摯であり、それがかえって、前衛のわかりにくさと、芸術に憑かれた者の業の深さを鮮やかに描出していた。
 さて本書『爆発的』は、『痙攣的』でアレに隠れ気味だった上記の要素を、いま一度正面から取り上げた作品である。連作短編集の形式を採る本書で燻り出されるのは、各編における奇矯なトリックもさることながら、芸術のためなら何事も厭わない、他がどうなっても構わないという強いこだわりである。読後感には、アーティストたちの割り切りの清々しさと、彼らの業の深さから来るおぞましさが不思議に共存する。この読み口はなかなか味わい深い。
 一方ミステリ的な観点からは、犯人や犯行手段を特定するロジックはやや弱いと言える。しかし代わりに、犯人または被害者の発想のツイストによってきりきり舞いさせられるので、本格ファンが満足することはできるはずだ。一冊通して見ても、『痙攣的』並みのアレこそないものの、十分に水準以上を行くオチが用意されており、各編の粒も揃っていて具合がいい。
 鳥飼否宇は、鬼面人を驚かすことばかりやっている作家ではない。それを十分理解した鳥飼ファンなら楽しめること必定だし、パラノイアックな奇人――正確には、その発想――が出て来る小説が好きな人にもおすすめしたい。