不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

第三帝国の興亡2/ウィリアム・L・シャイラー

第三帝国の興亡〈2〉戦争への道

第三帝国の興亡〈2〉戦争への道

 今回扱うのは、ナチス統治下のドイツの環境・オーストリア併合・チェコ併合(スロヴァキア独立)である。ナチスが従前の主張どおり、最初から《生存圏》獲得を目標として突き進んでいたことが描かれる。経済政策がこんなにいい加減なものだったとは……。そして国際社会(特に英仏)は、ヒトラーの真の意図になぜか気付かないまま、オーストリアチェコスロヴァキアの犠牲の上に平和を打ち立てようとする。これが世に言う宥和政策だが、ヒトラーの欺瞞に満ちた態度にコロリと騙され、そしてまたチェコ併合時点では軍事面で英仏が圧倒的に優勢であったにもかかわらず、ヒトラーに無血での大勝利をもたらしてしまうのだ。歯車がうまく機能しないときは、本当にとことん機能しないものだなと思い知らされる。『我が闘争』で散々主張されていたことなのに、「まあ常識的に考えて、そこまでやるまいよ」という一見オトナでカッコいい反応が、取り返しの付かない事態への道を拓く――。何とも悲しいことではある。
 作者の舌鋒はますます鋭さを増している。60年代というまだ記憶が生々しい時期に書かれている上、結果論に傾き過ぎであり、圧政下のドイツ人(およびドイツ陸軍)に多くを求め過ぎではあるものの、彼の主張どおり、確かにまだあの惨禍をふさぎ得た機会は少なくなかったのである。
 かくてヨーロッパ社会はその全てのチャンスをスルーしてしまった。次巻はいよいよポーランド侵攻、即ち第二次世界大戦初期が扱われる。こう言っては何だが、楽しみである。