不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

時の眼/アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター

 ある日突然、地球は《断絶》と呼ばれる天変地異に見舞われた。地球という星は、いきなり、少なくとも二百万年に及ぶ各時代・各地域のパッチワークになってしまったのだ。どうやらこの奇禍は、地球各地の中空に浮かぶ《眼》によって引き起こされたらしい。この出来事に巻き込まれた2030年代の軍人と宇宙飛行士は、《断絶》後の地球をミールと呼び始める。このミールで彼らは、第二次アフガン戦争に出征していた大英帝国軍の一隊、アレクサンドロス大王の親征軍、チンギス・ハーンの軍勢に出会い……。
 地球外知性体またはその先鋒であるらしい謎の《眼》の超科学のため、通常あり得ない状態になった地球を舞台に、壮大な歴史の“IF”が繰り広げられる。バビロンを巡って、東西二大征服者、アレクサンドロスとチンギスが激突する――というのは、なかなかに燃える設定である。これを19世紀と21世紀のテクノロジーがサポートし、ついでに傍らには猿人がいたりするなど、シチュエーション的には非常に面白い。作り込みも悪くない。モンゴル側の考証が甘いのは一モンゴロイドとして気になるが、シミュレーション小説として高いクオリティを誇っているといえよう。
 しかしSFとしてはかなり脆弱である。科学的ギミックがあまりないのは話の内容(山場がマケドニア兵vsモンゴル兵)からして当然なのだが、終結がグダグダなのは言い訳がきかない。作者がクラークとバクスターであることに鑑みれば不満の残る出来栄えだ。クラークを象徴する《壮大なランドスケープ》がないのも残念である。もっとも本書には続編があるため、ここら辺は割り引いて考えるべきかも知れない。というわけでその続編『太陽の盾』を近い将来読んでみたいと思う。