不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ステップ/香納諒一

ステップ

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 盗みのプロの斎木章は、トラブルに巻き込まれた弟分の悟に助けを求められる。一肌脱ごうとする章だったが、1年前に死んだはずの恋人・杏が現れるなどして動揺するうちに、自身が知らないところでバタバタと事態が動いたようで、用済みとばかりにヤクザに殺されてしまう。……次の瞬間、章は昨日に戻っていた! 今度こそ悟を助けるため、章は再び事態の収拾を試みる。
 時間SFの要素を使った、ハードボイルド風味のサスペンスである。弟分(結構ベタ)と親友と、惚れた女を救うため――という浪花節成分が含まれているが、洗練された筆致がある程度臭みを取っているので、幅広い層が受容可能と思われる。話の構造は、トラブル回避を試みる→失敗して死ぬ→過去に戻って復活、の繰り返しである。一種のリプレイものだが、死亡から復活までの時間が次第に短くなって来るので、一人称の主人公は復活したその瞬間から大慌てで対策をとらざるを得ない。しかし毎回、前回死亡時の問題を解決したと思ったら別の問題が発生し、主人公が死ぬことになってしまうのだ。難儀なことではあるが、この繰返しがある度に、主人公が巻き込まれたトラブルの全容が次第に判明してくる。ここら辺は構成力の見せ所であり、香納諒一はさすがにしっかりと物語を作っている。
 ピンと張った緊張感、スピーディーな展開もいい。名手がその手腕を発揮した佳品と評価したい。