不壊の槍は折られましたが、何か?

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キッド・ピストルズの最低の帰還/山口雅也

キッド・ピストルズの最低の帰還

キッド・ピストルズの最低の帰還

キッド・ピストルズ》シリーズ、実に13年ぶりの復活である。収録されているのは5編で、うち2編は1995年、残りが2007年に雑誌で発表されている。ただし執筆年代によって差があるのは長さぐらいで(前世紀の2作の方が短い)、内容のクオリティに特段の違いはない。いずれの作品も、特異な設定下の奇妙な事件を扱っている。従来の作品と比べて、「この世界でしかあり得ない=異世界のロジック」という特徴は今回やや弱いように思うが、舞台設定そのものは相変わらず随分マニアックで、その雰囲気に浸るだけでも楽しい。探偵士を交えたキッドとピンクのやり取りも軽妙で、極端なことを言えばこれだけでも面白く読める。
 だが最も素晴らしいのは、マザーグースとの関連性や、最終的に浮かび上がる真相のアイロニーなど、よく考え抜かれた《構図》の数々である。トリックやロジック等々の《仕掛け》よりも、本書ではこれらを重点的に愛でるべきだろう。その点では「誰が駒鳥を殺そうと」や「超子供たちの安息日」が個人的なお気に入りである。とはいえ他の要素も手堅い。先述のように異世界のロジックというわけにもいかないが、真相を導き出すための数々の布石と、キッドによるそれらの整理(=推理)を記す作者の手捌きもさすがに手馴れたものだ。山口雅也ファンは、やはり要チェックであろう。