第三帝国の興亡1/ウィリアム・L・シャイラー
- 作者: ウィリアム・L.シャイラー,William L. Shirer,松浦伶
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/05/24
- メディア: 単行本
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この1巻前半では、ドイツという国家のまとまりのなさ、第一次世界大戦敗戦の屈辱感、中流〜下流階層の淀んだ意識の中から、次第にナチス・ドイツのコアが形成されていき、『我が闘争』に至るや後の全てが既に予告されていたことを示す。ミュンヘン一揆の段を除けば取り立てて劇的名エピソードには欠ける部分のはずだが、この思想醸成過程がなかなかにスリリングで読ませる。本書はヒトラーの思想内容よりも、その発生過程に焦点を当てており、筆の印象は粛々としていながら生々しい。個人的には、コンプレックスやルサンチマン、そして責任逃れの姿勢(「俺は悪くない!」という意識)が生み出した憎悪の果てに、ナチスが生まれたと読んだ。*1
で、後半でやっとナチスによる権力奪取が描かれる。パワーゲームとしての派手なエピソードに事欠かなくなり、しかもナチスにとって際どい局面が多々あって、読み物として単純に面白い。またワイマール共和国の浮沈という、私自身はあまり知らなかったことにもページが割かれていて面白かった。ワイマール憲法は当時世界で最も民主的な憲法と言われていたが、シャイラーはこれを字面だけのものと喝破する。その当否はさておき、筆者のますらをぶりを示していてカッコいい部分だ。なおシャイラーは、「はじめに」で極力冷静にナチスを語ると宣するが、実際には、抜き難い嫌悪感が随所で噴出している。ここら辺も非常に味わい深い。
第2巻では、第三帝国が戦わずして領土を拡大していく時期を扱うらしい。要は国際社会での外交的勝利を描くことになるのだろう。第1巻では、ナチスと国際社会の関わりがほとんど出て来なかったので、また違った読みどころがありそうだ。楽しみにしています。