不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

路傍/東山彰良

路傍

路傍

 28歳の“俺”こと矢野は、親友・喜彦と一緒に、船橋をチープに、そしてバイオレンスに駆け抜ける。
 6つのエピソードから成る、実質的な連作短編集である。低学歴ワーキングプア(というかニート?)の、過酷かつ浅薄で、それでいて強烈な生活を一気に描き抜く。主役コンビは明らかに《何も考えていない》タイプの粗暴な言動を連発するが、妙に飄々としており、破滅的というほど《惨劇の予感》を纏っていない。特に会話は軽妙で、しばしば喜劇的だが、意外な鋭さも垣間見せる。彼らは学力こそないも同然ながら、それなりの《見識》を持っているのである。しかし、そういった人間が、三十路近くになっても実に勢い良く、破綻しきった生活を送っているのだ。その《虚しさ》を自覚していると思しいこともあって、読者をザワザワとした、落ち着かない気分にさせてくれる。
 200ページちょっとの薄い一冊である。また、全体の味付けもカラッとしており、べとつく情緒とは無縁だし、下層階級の鬱屈といったようなものも全く提示されない。だから非常に読みやすいが、込められた《闇》には結構深いものがある。ノワール好きには一度試して欲しい一冊だ。