霜府高校の無目的部には、4名の部員が何となく在籍していた。ずっと本を読んでいる一郎。部外では猫を被って
お嬢様キャラを通している
千尋。元気いっぱいのほづみ。童顔でちっこい圭助。変人揃いの彼らは、部室の「無目的室」に特に目的もなく集まり、好き勝手に喋って帰る。お互いの私生活には本人が言わない限り立ち入らない。そんな部活動とも呼べない部活動が続くある日、ほづみが、不思議なことに遭遇したと言い出す。
8編所収の連作短編集である。グループ内での
ディベートを経る
安楽椅子探偵もの、という形式が、
アイザック・アシモフの《
黒後家蜘蛛の会》を想起させる。高校の名前と、「書店の彼女」で出て来る書店がある町の名前(
藍座市である)
からして、作者が
アシモフを意識したのは間違いないはずだ。とはいえ扱われるのは高校生の
日常の謎であり、各事件の内容はかなり他愛ない。ミステリの謎というよりは、クイズまたはパズルと考えた方が早いものばかりで、開陳される《真相》も小粒なものが揃っている。ただし登場人物のやり取りも原則としてかなり他愛ないので、作品全体のバランスは悪くない。うんうん、日常ってこんなもんですよね。登場人物の造形も、彫りは浅いが、お互い干渉が抑えられているという設定なので違和感もない。とはいえ、大多数の人間にとって疾風怒涛期であるところの学生時代を扱っているだけあって、ふと暗い影が差すこともある。全ては日常の中で起き、その外には一歩も踏み出さない作品なので、この《影》を殊更取り上げると作品を見誤ることになるものの、作品のいいアクセントになっていると好意的に解したい。