誰もわたしを愛さない/樋口有介
- 作者: 樋口有介
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2007/09/11
- メディア: 文庫
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被害者の友人、美人ジャーナリスト、直海、元上司で恋人の冴子など、美女がぞろぞろ出て来る。彼女たちは悉く柚木と惹かれ合うのだが、柚木の方は彼女たちに加えて別居中の妻子にも振り回され、世の中ままならないと感傷に耽るのである。問題は、今回の柚木が明らかに限度を超えてモテ過ぎであるということだ。このモテっぷりにより、作品世界は最早幻想の世界(というか桃源郷)に突入してしまっている。まあこれ自体は問題ないかも知れないが、この桃源郷で柚木が耽る感傷というのが、「桃源郷にいること」自体への想念ではなく、単に世の中(=桃源郷)にはつらいことが多いということなのだから、感傷自体の説得力に無視できない問題が生じている。
また私が読んだ限りでは、樋口有介はセックス抜きだと女性の人物像がパターン化する傾向がある。この『誰もわたしを愛さない』は、セックス抜きのうえに女性登場人物の数が多いこともあって、出て来る女性陣全員が強い既視感を帯び、個々の印象も散漫で精彩を欠く。
ではミステリ面はどうかというと、まあこれはいつものようにさらっとしている。ただし今回は、事件の構図から無理して世相に合わせた気配が濃厚に漂っていていただけない。これは恐らく、被害者の扱いに起因する。被害者と作品が終始距離を保つ――というと聞こえはいいが、要するに「最近の女子高生は乱れている」程度の適当なイメージを仮託して、それ以上の彫琢を施していないのである。結果、被害者の人物像は、事件の中心かつ最重要ファクターであるにもかかわらず、曖昧なまま終わってしまい、存在感も希薄、彼女が「生きていた」ことを実感させてくれない。しかもそんな適当な作りの事件を前に、肝心の主人公は、事件と直接リンクしない自分のモテモテな生活環境とどうでもいい感傷を、気障な科白で延々と弄ぶのみなのである。
というわけで、主人公サイドのドラマと、事件関係者のドラマの比重配分に問題がある作品だが、柚木草平の気障な言動を楽しみたい人にはおすすめできる作品だと思う。