不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

魔女/樋口有介

魔女 (文春文庫)

魔女 (文春文庫)

 就職浪人中の広也は、学生時代の恋人・千秋が自室で焼死したことを知った。広也の姉でTVキャスターのは、スクープのネタになるのではと考え、事件の調査を広也に命じる。そして女子高生で千秋の妹のみかんは、姉が魔女であったと言い始め……。
 広也は調査の過程で、自分が知らなかった千秋の一面を見せ付けられる。彼女の周辺の人物の死、火刑に凝される彼女自身の死に様、篭絡した男の多さ――数々のエピソードは、千秋の魔性を表してやまない。タイトルどおり、そしてみかんが主張するとおり、千秋は『魔女』だったのか? それが本書の興味の焦点である。また千秋の事件と直接関係がないところでも、様々な出来事が人生のままならなさを伝える。人間関係の光と影が浮き彫りになるので、展開はやや重くなりがちだが、そこは樋口有介のこと、広也の姉(結構ファンキー。肩肘を張っている面がなくはない)と、広也の恋人になるであろう少女みかん(ツンデレ)がいい味を出していて、物語に活力を生み出している。主人公の造形は青春小説におけるいつもの樋口有介、つまり結構キザで一見クール、でも弱い部分もたんとある。樋口有介のファンには見慣れた人物像のはずだ。
《魔女》云々の活用が若干突拍子もない点、ミステリ色が薄い点は人によって欠点となり得るが、本書を丸ごと青春小説と考えれば、納得もできよう。樋口ファンにはおすすめしたい。