不壊の槍は折られましたが、何か?

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夢の終わりとそのつづき/樋口有介

夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫)

夢の終わりとそのつづき (創元推理文庫)

 刑事を辞めて八ヶ月の柚木草平(35歳である!)の元に、曰くありげな依頼を引っさげた美女がやって来る。彼女は柚木にある男の尾行を依頼したのだが、彼女はその男の名すら知らないという。そして彼女はそれ以上の詮索を禁じ、前金として100万円を置いて帰って行く。怪しむ草平だったが、とりあえずその依頼を着実に実行。すると三日目、尾行していた男が餓死を遂げる。しかし男はその三日間、ずっと飲み食いしていたはずなのだが……。
 1997年にノンシリーズの『ろくでなし』として発表され、2007年に柚木草平シリーズの一作として改稿・改題されたもの。従来の柚木草平のキャラクターとは異なる造形が施されており、それが彼の年齢を38歳ではなく35歳にさせたのかとも思う。全体的に、かなり情熱的になっているんですよ。また彼のいる社会的な階層は、38歳の草平のいる階層の一段下であるような印象も受けた。また、依頼人がいくら美女でも、実際に寝るシーンは既存作品ではなかったと思うのだが、本書では激しいベッドシーンが付いており、意外の感に打たれた。というわけで、イメージが少々狂ったが、これはこれでなかなか面白い。
 本書の問題は、事件内容そのものである。さすがにこれは……。大規模な謀略、だがその真実はあまりにも荒唐無稽である。ハードボイルドは浪漫で何とかなるが、エスピオナージは浪漫だけではどうにもならない。作者としては、荒唐無稽さによって作品にユーモアを加味したかったのだろうが、個人的には、成功していないと思う。