ぼくと、ぼくらの夏/樋口有介
- 作者: 樋口有介
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 文庫
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ミステリとしては、真相隠蔽と犯人配置が水準を確保しており結構満足できる。しかし本書で最も素晴らしいのは、やはり春一と麻子の青春模様である。1988年の作品なので携帯はないし、その他「今ある」ものがないケースもあるが、基本的にこの二人のやり取りは時代とは無関係に《くさい》。おっさん臭いのではなく、さりとて青臭くもないが、とにかく気障な台詞が乱舞する。しかし体感温度は意外に低い。それはこの二人が、若い者にありがちな《斜に構える》姿勢を基本としているからである。用語用法が気障な点を除くと、ここら辺は米澤穂信の諸作にも通じそうだ。しかし事件はクラスメイトの死という深刻な局面を既に迎えているわけで、勢い彼らも結局は真剣にならざるを得ない。そしてその中で、急速に、しかし繊細に近付いていく二人の心。青春小説として一級品である。そしてその若さの後ろに、残酷な時の流れによって可能性が縮小した大人たちの寂しく悲しい姿が見える。この《背景》の素晴らしさは、リアル中高生ではなかなか感得しにくい部分かも知れない。
というわけで、樋口有介は最初から素晴らしい作家であることを確認できた。今後も継続してこの作家を追って行きたい。