不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ビールボーイズ/竹内真

ビールボーイズ

ビールボーイズ

 小学六年生の夏、北海道の新山市に住む正吉・広治郎・勇・薫の4人の少年少女は、秘密基地に集まって生まれて初めてビールを飲む。後から思えば、それが地ビール醸造への最初の一歩だった……。
『カレーライフ』で好評を博した竹内真が、今度はビールに題材を代えて送る一種の成長小説である。本書は、主役格の4名の少年少女*1が12歳から30歳に至るまでを描く。大学卒業前後までは彼ら自身の成長と身辺の変化が主眼だが、その後は次第に、正吉が志すビール造りがテーマの上でも前面に出て来る。そしてこれらを、北海道(地方都市)の衰退や酒の規制緩和などの社会環境の変転が取り巻く。章の合間に挟まれるビールに関する雑学エッセイと併せて、作品全体はビール愛に溢れているが、人間ドラマや社会環境と併せて、ビールだけに終わらない、より幅広の小説として本書が成立しているのは興味深い。また、こうやってしまうと「何がやりたかったのかよくわからない」茫洋とした小説になる危険性もあるのだが、登場人物の感情をきっちり把握・制御して書かれているので、この種のマイナス面が見られないのは素直に賞賛したいと思う。
 ただし、『カレーライフ』と比較すると、ビール造りに物語の興味の焦点が移行するまでが長く、また作品の尺も300ページ強と短いためか、登場人物のビールにかける想いの出力が弱い憾みが残る。また、ビール・エッセイそのものは素晴らしいのだが、ここで作者が自身のビール愛を出し過ぎて、本編が手薄になったような気もした。
 もっともこれらは『カレーライフ』と比較してのかなり無茶な注文と言うべきであり、公平に見れば十分楽しめる良い小説になっていると思う。ビール好きにはオススメ。エールが飲みたくなります。

*1:なお、なぜタイトルが「ボーイズ」なのかは後に明らかとなる。