ビールボーイズ/竹内真
- 作者: 竹内真
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2008/02
- メディア: 単行本
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
『カレーライフ』で好評を博した竹内真が、今度はビールに題材を代えて送る一種の成長小説である。本書は、主役格の4名の少年少女*1が12歳から30歳に至るまでを描く。大学卒業前後までは彼ら自身の成長と身辺の変化が主眼だが、その後は次第に、正吉が志すビール造りがテーマの上でも前面に出て来る。そしてこれらを、北海道(地方都市)の衰退や酒の規制緩和などの社会環境の変転が取り巻く。章の合間に挟まれるビールに関する雑学エッセイと併せて、作品全体はビール愛に溢れているが、人間ドラマや社会環境と併せて、ビールだけに終わらない、より幅広の小説として本書が成立しているのは興味深い。また、こうやってしまうと「何がやりたかったのかよくわからない」茫洋とした小説になる危険性もあるのだが、登場人物の感情をきっちり把握・制御して書かれているので、この種のマイナス面が見られないのは素直に賞賛したいと思う。
ただし、『カレーライフ』と比較すると、ビール造りに物語の興味の焦点が移行するまでが長く、また作品の尺も300ページ強と短いためか、登場人物のビールにかける想いの出力が弱い憾みが残る。また、ビール・エッセイそのものは素晴らしいのだが、ここで作者が自身のビール愛を出し過ぎて、本編が手薄になったような気もした。
もっともこれらは『カレーライフ』と比較してのかなり無茶な注文と言うべきであり、公平に見れば十分楽しめる良い小説になっていると思う。ビール好きにはオススメ。エールが飲みたくなります。
*1:なお、なぜタイトルが「ボーイズ」なのかは後に明らかとなる。