スメラギの国/朱川湊人
- 作者: 朱川湊人
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/03
- メディア: 単行本
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次第に某登場人物v.s.猫たち、というホラー小説として収斂していくのだが、そこに至るまで大小織り混ぜて色々起きる。また構成上も、メイン・プロットとは別にサブ・プロット(交通事故で息子を亡くした男の悲嘆)がある。物語の展開は、だから決して一本道ではない。ただし終始読みやすく、高いリーダビリティが維持される。
その理由は二つある。一つは、人猫ともに、主要キャラクターには悉く「理解できる」事情があり、決定的な悪役や理解不可能な「おぞましい」存在があまりいないということだ。もう一つは、メインとサブはいずれも、《愛する者を守る心情》というテーマ上の共通点を持っているということである。直接的な関連は薄いものの、感情が共通することで、各パートは有機的に結合されている。それが『スメラギの国』全体の完成度を底上げしているのである。そしてやっぱりこれは付言せずにはおられない。本書では、猫がその特徴を遺憾なく発揮しているということである。愛玩動物としての可愛らしさと、高貴な気まぐれ、そして獣としての残酷な本性。それが、高知能化という一種の人間化を通して、かえってより端的に描出されているのだ。これは本書の明らかな長所と言えるだろう。
もっとも弱点がないわけではない。たとえば幽霊は設定として安易である*1し、他にもいくらでもやりようがあったはずだ。しかし総合的には、実にいい長編小説であると思う。既存の朱川ファンにはもちろん、小説好きには広くおすすめしたい。
*1:蛇足だが、これさえなければ、本書はSFだとも言えたはず。