不壊の槍は折られましたが、何か?

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死写室/霞流一

死写室

死写室

 霞流一初の短編集である。『おさなか棺』は作者によると中編集であったらしい。
 280ページほどの中に9編と、かなり大盤振る舞いの一冊である。全編で紅門福助が探偵役を勤め、しかも舞台は映画業界に統一されている。霞流一といえば何と言っても見立て殺人&不可能犯罪だが、本書でもその特徴は遺憾なく発揮され、いつものギャグ要素も健在である。ただし動物の見立ては登場せず、さらに謎も若干地味なものが含まれている。しかも何せ一編当たり平均30ページしかないため、筋立ては簡素、推理もさらりと為される。
 霞流一の作品では、そのおバカな雰囲気ですっかり油断させられたところ、ラスト近辺でいきなり虚無感の風が吹き荒び、読者をハッとさせることがままある。しかし本書の場合、物語を練成するには各編の尺が足りなかったのか、暗い側面が少々消化不良といった印象を受けた。この点は弱点と言えるかも知れない。
 しかし本格ミステリとしての作り込みは磐石で、ロジックは堅牢である。説明をさらりと流しているので気付きにくいかも知れないが、トリックも結構大掛かり・複雑で素晴らしい。特に「霧の巨塔」「首切り監督」「モンタージュ」「死写室」は、結構な大胆なことをしていて、本書の白眉と言えるだろう。ただこれらには極端な要素が混入しているので、もっと落ち着いた作品を好む人には、「届けられた棺」「スタンド・バイ・ミー」「ライオン奉行の正月興行」辺りをすすめておきたい。