堕天使拷問刑/飛鳥部勝則
- 作者: 飛鳥部勝則,PARADISE D
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/01/25
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 185回
- この商品を含むブログ (46件) を見る
最も目立つ特徴は、ホラー要素が和洋ない交ぜに大量投入されていることだ。舞台は日本の田舎町で、行き過ぎた閉鎖性や奇妙なしきたりなどは、明らかに和風である。しかし同時に、悪魔や美術館といった極めて西洋的な装飾も施されている。畢竟、雰囲気は読者を選びかねない非常に怪しげなものとなるが、豪快なトリックを使ってそれなりの着地点を見出しており、また途中の展開も緊迫感に溢れ、ダレる部分が少ないのは評価したい。
主人公タクマの精神年齢がやたら高いことも特徴だ。中学生1年生(!)としては異様に大人びており、特に言葉遣いは高校生――たとえば折木奉太郎――をすら超えている。しかしここで彼を中二病と決め付けるのは早計で、彼には間違いなく開明的な正義感と矜持が備わっており、ハードボイルドに一脈通じる。とはいえ、一方でボーイ・ミーツ・ガールの当事者であるなど、実年齢相応のところも見せて、一筋縄では行かないのである。ただし彼のこのキャラクターのおかげで、ストーリーに起伏と一定の普遍性がもたらされていることは見逃せない。タクマは本質的には都会人であり、ゆえに村に対し当初は違和感を、後には不信感を覚える。また村人たちも彼に気を許さず、舞台の特殊性が一層際立ってくるのだ。
飛鳥部勝則の特徴であったメタ要素も健在である。特に今回は、最後の最後で実にうまく作品を締めており、作品全体の完成度に資するところ大といえよう。
というわけで、本書は飛鳥部勝則の復帰第一作としては最上の出来栄えを見た。気負いが見事に結実し、作品の第十一章がモダンホラーのブックガイドとしても使えてしまう《遊び》も含めて、意欲的な作品に仕上がっている。恐らく今後、本書は作者の代表作として扱われよう。捲土重来は見事に果たされた。今後の作者の益々の活躍を祈念したい。