不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

堕天使拷問刑/飛鳥部勝則

堕天使拷問刑 (ハヤカワ・ミステリワールド)

堕天使拷問刑 (ハヤカワ・ミステリワールド)

 両親を事故で亡くした中学1年生の如月タクマは、母方の実家に引き取られるが、そこでは以前、祖父が密室で怪死していた。しかも彼は、町長の座を賭けて争っていた一族の女三人が斬首したと噂されていたのである。彼の孫ということで一部町民から謂れなき差別を受けるタクマであったが、やがて新たな殺人事件が……。
 最も目立つ特徴は、ホラー要素が和洋ない交ぜに大量投入されていることだ。舞台は日本の田舎町で、行き過ぎた閉鎖性や奇妙なしきたりなどは、明らかに和風である。しかし同時に、悪魔や美術館といった極めて西洋的な装飾も施されている。畢竟、雰囲気は読者を選びかねない非常に怪しげなものとなるが、豪快なトリックを使ってそれなりの着地点を見出しており、また途中の展開も緊迫感に溢れ、ダレる部分が少ないのは評価したい。
 主人公タクマの精神年齢がやたら高いことも特徴だ。中学生1年生(!)としては異様に大人びており、特に言葉遣いは高校生――たとえば折木奉太郎――をすら超えている。しかしここで彼を中二病と決め付けるのは早計で、彼には間違いなく開明的な正義感と矜持が備わっており、ハードボイルドに一脈通じる。とはいえ、一方でボーイ・ミーツ・ガールの当事者であるなど、実年齢相応のところも見せて、一筋縄では行かないのである。ただし彼のこのキャラクターのおかげで、ストーリーに起伏と一定の普遍性がもたらされていることは見逃せない。タクマは本質的には都会人であり、ゆえに村に対し当初は違和感を、後には不信感を覚える。また村人たちも彼に気を許さず、舞台の特殊性が一層際立ってくるのだ。
 飛鳥部勝則の特徴であったメタ要素も健在である。特に今回は、最後の最後で実にうまく作品を締めており、作品全体の完成度に資するところ大といえよう。
 というわけで、本書は飛鳥部勝則の復帰第一作としては最上の出来栄えを見た。気負いが見事に結実し、作品の第十一章がモダンホラーのブックガイドとしても使えてしまう《遊び》も含めて、意欲的な作品に仕上がっている。恐らく今後、本書は作者の代表作として扱われよう。捲土重来は見事に果たされた。今後の作者の益々の活躍を祈念したい。