シオンシステム/三島浩司
- 作者: 三島浩司
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2007/12
- メディア: 単行本
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硬い報告調の文体で、近未来の日本社会と医療問題をリアリスティックに描出している。しかも寄生虫医療の全貌が見えて来るに連れ、ネタのスケールがどんどん大きくなるのである。この過程はまこと、SF的にエキサイティングであり、期待させられた。
しかし事態の収拾がうまく行っていないのである。SFとしての肝心要の部分は、曖昧にはぐらかされ腰砕けとなっており、評価しづらい。むろんハードコアな科学ネタが駄目でも小説作りがうまければ何とかなるが、《人間ドラマ》的な部分、即ち伝書鳩レース・記憶をなくした青年・研究者たちの葛藤なども、いまいちぱっとしない。これは先述の「硬い報告調の文体」が、ありとあらゆる場面に使用されていることの悪影響であろう。この種の文章は、ルポ的に事態の推移を記述するには向いているが、情や意志を読者に確然と打ち出すには全く向かないのだ。
とはいえ本書は、もう少しこなれるか煮詰めるかすれば、化けていた可能性がある。このままでは佳作とすら言えないが、不思議と嫌いにはなれない一冊である。とりあえず、この作者は今後ちょくちょくチェックしたい。