不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

コスミック・レイプ/シオドア・スタージョン

 憎悪と憤怒でその内面を形成している浮浪者ガーリックは、ある日、ゴミ箱から拾ったハンバーガーを口にした。だがそれに使用されていた馬肉には、宇宙の彼方から飛来して来た超生命体・メドゥーサが含まれていた。メドゥーサは、種族で集合意識を保有していない人類という種に驚愕し、ガーリックの脳に語りかけ使役し、人類に共同意識を形成させ、然る後人類という種を乗っ取ろうとする……。
 以上の《本筋》が割合としては半分を占め、合間に、他の地球人類数組のエピソードが様々に挟まれる。この《エピソードの並列》は、人類の意識は個々人でてんでバラバラであるという当たり前の事実をしっかり示す役割を担っており、集合意識の顕現以降彼らの言動が明瞭に変化しているという点で、ストーリーの転換点を明瞭に打ち出している。もちろん、本書でスタージョンが描く集合意識の何たるかを個別具体的に表現する手段にもなっている。
 ここで注目したいのは、スタージョンが集合意識の獲得をどういったものと捉えたかである。知性のレベルアップ・情緒のスケールアップという効果も無論あるが、まずふくよかで懐深い愛情が強調されているのだ。これは非常に興味深いと同時に、この上なくスタージョンらしいこととも思われた。なおこれには、ガーリックが強烈なDQNであることも効果を挙げている。比較的読みやすいこともあり、中編以上のスタージョン入門には向いているかもしれない。ただ最近は『ファウンデーションの誕生』の文庫版解説者のように、集合意識ということだけで気味悪がって勝手に批判的になる人も多いので、この点は若干不安である。ラストを読めば、集合意識によって個性その他諸々を消去する志向とは、スタージョンが真逆を行くのは自明であろう。
 サミュエル・R・ディレイニーによる解説は、実に50ページ近い長さ(ちなみに本編は200ページ弱)であり、まさに言うべきことを言い尽くしている。『コスミック・レイプ』やスタージョンのことに限らず、自らの創作姿勢、読者の姿勢、スタニスワフ・レムスタージョン批判などに縦横無尽に筆を走らせ、SFにかける想いを熱く語る。これもまた本書の読みどころの一つであろう。誰か復刊してくれないかなあ。