不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

裁くのは誰か?/ビル・プロンジーニ&バリー・N・マルツバーグ

裁くのは誰か? (創元推理文庫)

裁くのは誰か? (創元推理文庫)

 一期目の終盤、アメリカ合衆国大統領のニコラス・オーガスティンの支持率は急降下の一途であった。やることなすことマスコミの批判に晒され、ニコラス自身もノイローゼ気味であった。党内でもニコラスへの大統領候補指名を差し控えようという声が高まり、このままでは二期目への出馬すら覚束ない。そんな中、大統領の周辺で連続殺人事件(?)が発生。ホワイトハウスのスタッフの中に殺人鬼が紛れ込んでいるのか?!
 ニコラスの妻(つまりファースト・レディ)クレアを含め、視点人物が頻繁に切り替わるとともに、殺人者自身のおサイコなパートも随所に挟まれ、サスペンスは最初から高めで推移する。ミステリ的にどう見ても怪しげな雰囲気も醸され、終盤へ向けての期待はいやがうえにも高まろう。そして遂に振り下ろされる、衝撃的な真相! スレスレであり笑えることは必至だが、世界最高の権力者周辺の《虚しさ》を一面鮮やかに表出していると言えなくもない。物語の雰囲気は終始絶望的なもので、読者が本書に「打たれる」ことも大いにあり得る。本書はバカミスである。しかしバカミスとは愉快なだけではなく、かように深刻な物語にもなり得るのである。