不壊の槍は折られましたが、何か?

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ロボット物語/スタニスワフ・レム

 紀伊国屋書店の肝煎りで、バカSFにおける世紀の大傑作『宇宙創世記ロボットの旅』がめでたく復刊されたレムであるが、それを記念して私も本書『ロボット物語』を読んでみた。登場人物は基本的にロボットで、宇宙を作ったり星を整備したり、無理難題を押し付けてくる王様(ロボット)を言いくるめたり打ち負かしたり、哲学を突き抜けてただのトンチになってしまった解を宇宙的大問題に与えたりと、とにかくまあロボットたちが愉快に大活躍するのである。ここら辺は『宇宙創世記ロボットの旅』と共通するが、『ロボット物語』ではトルルとクラパウチェスが登場しないという相違がある。
『宇宙創世記ロボットの旅』で神がかっていた部分は、訳者の労苦も凄まじいものであったろう言葉遊びをはじめ、やや後退している。皮肉や風刺の鋭さもより直線的なものになってしまい、わかりやすくなった反面、精彩を欠いているように思われた。しかしこれらはまああちらが世紀の大傑作だったからであって、寓話性の高さと文明に対する視線の厳しさは相当なものである。情報密度も相変わらず高い。しかしこの作品集が凄いのは、重厚な読み応えをそのままに、話の極大なスケールもそのままに、滅法楽しいユーモア小説に仕上げていることである。
 スタニスワフ・レムという天才の頭の中身なんて、私如きではどうやっても「理解」なんてできるはずもなく、「解釈」なんてこともできるはずがない。ゆえに、私は本書を楽しく読むことにした。しかしその奥に、広大な思索と思弁の沃野(いや荒野か?)が広がっているのがひしひしと伝わってきて、震撼する瞬間も多々あるのだ。ユーモア小説でこういう体験ができるのは……やはりスタニスワフ・レムの重要な魅力の一つなのだろう。