不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ロジャー・マーガトロイドのしわざ/ギルバート・アデア

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

 1935年12月。クリスマス・パーティのためにロジャー・フォークス大佐の館に集まっていた人々は、吹雪のため館に閉じ込められてしまう。そしてそこで事件が。大佐の娘が勝手に連れて来たゴシップ記者が殺されたのだ。彼は出席者の秘密を握っていると主張して、全員に殺意に近い苛立ちを感じさせていた。館にいる者の中に犯人がいるのではと疑心暗鬼に駆られた彼らは、近くに住む元警部を呼び付け、全員が居並ぶ中で、皆が自分の秘密を告白し始める……。
 2006年に発表された作品で、中身は黄金期本格へのオマージュに溢れている。「この屋敷で本の中のような密室殺人が起きるなんて!」と嘆きながら、登場人物たちはミステリミステリした事件に嫌々付き合うことになる。意気軒昂なのは、でしゃばりな女流推理作家のみで、彼女の存在が物語に喜劇的な雰囲気をもたらしている。また、節々には黄金期の巨匠たちへの言及が見られ、クラシック・ファンとしてはなかなか嬉しい。基本的にはパロディ色が非常に強く、ストーリー展開が一部の登場人物にとって結構ご無体なのは笑える。読みやすくて始終楽しいのも実にいい。
 そして肝心のネタはバカミスでした。これは素晴らしい。08年の早川書房は初っ端からとんでもないもん出して来たなあという感じである。伏線がしっかりかつひっそり張ってあるのも高く評価したい。既視感のあるネタではあるが、非常に気持ちよく読み終えることが出来るのは、この「しっかりかつひっそり」がうまく利いているからである。下品ではない愉快な笑いを、本書はミステリ好きに必ずやもたらしてくれるはずだ。これ以上詳述できないのは残念だが、ミステリ・ファンには是非おすすめしたい。